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バブルははじける──。AI研究の第一人者、松尾豊・東京大学大学院教授はこう警鐘を鳴らす。多くの企業はマーケティングを目的に、単にITの活用をAIと言い換えているだけだと指摘する。経営者が技術を理解し、ビジネスとつなげなくてはAIでイノベーションは起こせないと説く。

東京大学大学院教授
松尾 豊氏
2002年東京大学大学院博士課程修了。博士(工学)。米スタンフォード大学客員教授などを経て19年4月から現職。AI研究の第一人者として知られる。(写真=山下 裕之)

 日本企業の間でAI(人工知能)の理解が一向に進んでいない。中身はいわゆるIT(情報技術)化のような話が半分以上ではないか。今までもやっていたことをAIという言葉に換えて、マーケティングに利用しているだけ。意味がまったくないわけではないが、それでは世界で勝てるビジネスは生まれない。だから私は「日本でのAIの盛り上がりは中身のないバブル、いつはじけてもおかしくない」と警鐘を鳴らしている。

 AIの現状を、エレベーターがもたらしたイノベーションと重ねて考えてみたい。2階に上がるために使っても意味はなく、階段で十分だ。10階や20階建ての高層ビルが建てられるようになったことこそがエレベーターの革新性だ。

 今、AIで最も大きなイノベーションが起きているのが深層学習(ディープラーニング)だ。自律的に画像や映像を(人間以上に)認識できるため、新しいビジネスが生まれている。高層ビルが建ち始めているわけだ。

インターネット登場時と同じ

 ITやビッグデータは20年以上前からやっているので、新しい価値がそれほど残っていない。一方、ディープラーニングを使えばさまざまなプロセスの自動化が可能になる。

 エンジンやトランジスタが発明された時も、インターネットが登場した時も同じ。その時代のテクノロジーをちゃんと身に付けて経営的な意思決定を行い、どういうビジネスが生み出せるか一生懸命に考え、やり遂げた人がビジネスで成功を勝ち取った。

日本企業の経営陣はAIへの理解が乏しい
●マネジメント層が人工知能サービスを熟知している割合
注:人工知能技術のビジネス導入済みまたは検討している企業の部長クラス以上、社長、会長、経営者が対象
出所:MM総研「機能特化型の人工知能技術のビジネス活用」

 新たな価値を見つけるには、当然技術(ディープラーニング)のことが分からなければならない。経営者が分かっていなければ技術の活用に踏み切れない。それにもかかわらず、残念ながら日本には技術とビジネスの両方を分かっている経営者が少ない。

 3カ月や半年でもきちんと勉強すれば、ディープラーニングを経営にも活用できるようになる。だから技術を研究している我々からすると、「早く勉強してほしい」という話に尽きる。これまでこうしたことを日本企業の経営者に何年も言い続けてきたが、何も起こらない。

 社長は業界やビジネスの構造が頭に入っている。それと照らし合わせることで「ここにAIを使うとこうなるのでは」というシミュレーションができるようになるはず。社長としてAIのことが腹落ちしていなくて、自分の言葉で語れないような会社は本物ではない。

 もちろん手足を動かすのは現場だが、プロジェクトに関わっているうちに、社長に知識が付いてくる。嗅覚の鋭い社長は自分なりに理解して、自分の言葉でAIを語れるようになる。下に任せて「何かやれ」と言ったってできるわけがない。

日経ビジネス2019年5月20日号 26~27ページより