国内外で活発になるMaaSへの取り組み。だが、海外と比べると、日本の出遅れ感は否めない。世界と戦うには、少なくとも克服すべき課題が3つある。

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 人口約33万人の群馬県前橋市。この典型的な地方都市が昨年末から今年にかけてMaaSの本格的な実験に取り組んでいる。市内の主要駅の間を自動運転バスが走行。山間部ではスマートフォン(スマホ)のアプリで呼ぶことのできる乗り合いバスを運行している。いずれも実証実験ではあるが、市内に6つあるバス会社は、時刻表や運賃のデータベースを共通化済みだ。

 地元の群馬大学や交通事業者とも連携し、前橋市が新たな仕組みの導入に躍起になっているのはなぜか。同市市役所の細谷精一交通政策課長は「課題先進都市だからだ」と話す。群馬県は1人当たりの自動車保有台数が0.68台と全国首位の「クルマ社会」。市民は移動の8割近くをクルマに頼っている。

 中核都市だけあって、バスなどの公共交通はある程度、整っている。それでも家の前から目的地まで、動きたい時に動ける利便性と快適性で公共交通はマイカーに及ばない。結局、バスはクルマの運転ができない一部の人の移動手段にとどまり、前橋市はバス会社に年3億円以上を補助している。

 ただ、このままマイカーが「生活の足」であり続ける保証はない。今後、高齢化が進み、免許所有者が減少することが想定されるからだ。クルマの加害事故に占める高齢者運転手の割合は2割近くに上り、75歳以上の後期高齢者になると免許を返納するケースも増える。先手を打っておかないと、将来「移動難民」が出かねない。

 日本でMaaSを導入する意義の一つはここにある。前橋市のような都市は全国、至る所にある。どこも人口減と高齢化に直面し、公共交通網の維持もままならない。タクシーやバス、鉄道などの複数の移動サービスを一体化し、運用できれば、公共交通網の維持コストを少しは減らせるかもしれない。全国でMaaSの実用化をにらんだ自動運転バスの実験などが進むのも、自治体のそんな期待の表れだろう。

旗振り役不在の日本

 もっとも、海外に目を転じれば、MaaSの進化のスピードは速い。PART2で見たように、米国や中国ではアプリを通じて様々な移動手段の利便性を高めるだけでなく、道路や信号機などにセンサーを設置し、クルマや人の流れそのものを制御しようとしている。「官」が主導的な役割を果たしているからだ。

 ところが、日本では旗を振る存在がいない。東京大学の須田義大教授は「大所高所からの議論が重要だ」と指摘する。これが日本がMaaSを普及させる上での1つ目の克服すべき課題だ。

 国土交通省と経済産業省が4月初旬に立ち上げた「スマートモビリティチャレンジ推進協議会」。日本でMaaSを根付かせる具体策を探り始めたが、「国としての方針は本当にまとまるのか」(交通業界関係者)との声が早くも出ている。両省では求める社会の方向性がそもそも違うからだ。

 実際、国交省はマイカーに頼らない街づくりの手段としてMaaSに着目している。同省担当者は「MaaSを地域活性化につなげたい」と話す。一方で経産省は基幹産業である自動車産業の基盤強化に主眼を置きがちだ。

 MaaSを社会に根付かせるために行政がやるべき仕事は多い。データで読み解くMaaSで指摘した通り、自動運転車を使ったMaaSが広がれば、逆に街中は自動運転車であふれ、移動時間が増えるとの予測もある。民間企業の知恵で、課題を解決することもできるかもしれないが、例えば、行政が自動運転車の専用レーンを設けるといった手立てを打てれば、MaaSの普及スピードは上がるはずだ。

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