世界で広がりを見せるMaaS。どこにビジネスチャンスは広がっているのか。MaaSビジネスを「因数分解」してみると、次の3要素が浮かび上がる。移動データを集め、解析し、使う──。チャンスはここにある。

世界でデジタル地図を巡る攻防が激しくなる
●世界の地図サービス会社の相関関係
世界でデジタル地図を巡る攻防が激しくなる<br><small>●世界の地図サービス会社の相関関係</small>
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 様々な移動サービスを統合して利便性を高めるMaaSは、PART2で見たフィンランドのマース・グローバルのような「MaaS事業者」だけが担い手ではない。MaaSは様々な技術やノウハウを注ぎ込まなければ実現しない。

 まず、必要になるのが移動データだ。人やクルマなどのモビリティーが今、どこにいて、どう動いているのか。個人が持ち歩くスマートフォン(スマホ)からもある程度は移動情報は拾えるだろうが、自動運転車などより高度な移動手段を実用化する上では、より精緻な仕掛けが必要になる。さらに、こうした情報をリアルタイムに解析するところにも商機はある。

 さらに肝心なのは、こうして集めて解析したデータをどう活用するかだ。アイデア次第で、人やモノの移動に革新を呼び込み、新市場を立ち上げることも不可能ではない。

 ここからは、MaaSを、データを集め、解析し、使う、というステップに分け、新市場の姿をあぶり出していこう。

 これまで表示されていた細かな道路やバス停などが“消えた”──。3月下旬、米グーグルの地図アプリ「グーグルマップ」の日本向けサービスに指摘が相次いだ。グーグルは3月6日に日本向け地図を一新すると発表しており、新しい地図サービスで不具合が起きたと受け止められた。

 グーグルマップには地図大手ゼンリンが提供している地図情報が使われている。グーグルとゼンリンはことの詳細を明らかにしていないが、同時期にグーグルマップから「ゼンリン」の文字がなくなったことから、両社の契約内容が変更され、ゼンリンがグーグルに提供する情報量が減ったことが不具合の原因とみられている。

 もっとも、MaaS時代にこうした不具合が発生すると、事業者にとっては致命傷になりかねない。自動運転車もシェア自転車も、あらゆる移動サービスの基盤となるのが地図情報だからだ。

 日本でこの分野をリードするのがゼンリンだ。創業は1948年。上書きし続けてきた住宅地図は全国1741市区町村を網羅し、人口カバー率は100%を誇る。今も1日当たり1000人の調査員と、周囲を見渡せる360度カメラを搭載した約70台の車両を使って地図情報を日々更新している。

 1月下旬、埼玉県秩父市の送電設備上空をドローン(小型無人機)が飛んだ。楽天や東京電力ホールディングス傘下の東京電力ベンチャーズが実用化を目指す、送配電網を道しるべにしたドローン配送実験。ここにもやはり、ゼンリンが一枚かんでいる。

 「ドローン配送を実現するには、空間情報としての地図を提供する必要がある」と竹川道郎執行役員。平面的な地図から立体的な地図へ。あらゆる移動サービスに対応できるようにデータを集める。

 立体的な地図は自動運転車での活用も期待される。ここに道幅や制限速度、立体交差の位置などの情報を加えることで、自動運転の精度は高まるからだ。

 こうした自動運転車向けの地図データ基盤の構築を目指しているのがダイナミックマップ基盤(DMP、東京・中央)だ。同社にはトヨタ自動車など自動車各社が参画。ゼンリンは地図データを作るノウハウ提供などで協力する。

 地図を巡る日本連合を作るのは、地図情報を外国勢に握られるわけにはいかないからだ。仮にグーグルが日本の地図情報を抑えれば、自動車メーカーは自動運転車を売る度に地図利用料を取られるかもしれない。

 自動車業界関係者が気にするのが、パイオニア子会社で、ゼンリンと並ぶ地図大手インクリメント・ピー(東京・文京)の動向だ。パイオニアは経営難から昨年、香港ファンドの傘下に入った。香港とはいえ「中国色」は拭えないファンドの傘下にインクリメント・ピーも組み込まれたわけで、その影響を自動車メーカーは注視しているという。

 それほどまでに神経質にならざるを得ない地図ビジネス。世界に目を向ければ、覇権争いは激しさを増す。

 その最右翼が独ヒアだろう。もとはフィンランドの通信機器大手ノキア傘下にあったが、2015年にBMW、アウディ、ダイムラーの独自動車大手3社が共同買収。欧米のカーナビ搭載車の8割に地図を提供している。

 ヒアは自動運転車向け地図連合作りにも乗り出している。中国のナブインフォ(北京四維図新科技)や韓国SKテレコムと自動運転車向け地図情報の提供を目指す。これまではさほど強くなかったアジアでも足場づくりが進む。

 そのヒアが1月、MaaS事業者に名乗りを上げた。提供するのは相乗りサービスの利用者向けアプリ「SoMo(ソモ)」。このアプリを使えば、例えば、サッカー教室に通う子供たちをクルマで自宅に送り届ける際、それぞれの子供の親に何時に自宅に着くか知らせることができる。多くの人が集まるイベント会場で、見知らぬ人同士でアプリを介してグループを作り、1台のクルマを共有するといった使い方も可能だ。すでに米ロサンゼルスなど世界15都市でサービスを始めたという。

 なぜ、地図会社のヒアがMaaS事業に踏み込むのか。同社日本法人のムーン・J・リー副社長は「目指すのは地図の先にある世界だ」と明かす。

 ヒアにはデジタル地図上に渋滞や事故の情報をリアルタイムで反映し、目的地に着く時間を正確に予測する技術がある。この技術を使えば、自宅に到着する時間に合わせて、自動的にお風呂を沸かしたり、エアコンを作動させたりすることも可能になるのだ。これがヒアが考える「地図の先の世界」。今後、電力会社や家電メーカーなどと連携して実用化を目指す。

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