人口減社会の中では、シニアの給与・待遇面でも一段の工夫が欠かせない。人手不足や高齢化に有効な手を打てなければ、企業も日本経済も「じり貧」が近づくだけだ。働きに「報いる」視点でシニアのやる気を引き出す一方、若手への配分も課題になる。

 「もうひと花、咲かせられるかな」。日本ガイシの生駒信和氏は61歳の今も現役だ。自動車の排ガスに含まれる有害物質濃度をリアルタイムで測定するセンサーの開発に長く携わってきた。「次の新製品を世に送り出すまで仕事を続けたい」。体力も、技術者としての熱意や誇りも、まるで衰えを知らない。

シニアが「100%頑張れる」仕組みに
●日本ガイシの給与改定のイメージ
シニアが「100%頑張れる」仕組みに<br /><small>●日本ガイシの給与改定のイメージ</small>
日本ガイシの生駒信和氏は61歳の今も現役社員。新製品の開発に取り組み続ける
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 「定年後」となるはずの生駒氏だが、日本ガイシが2年前から導入した新制度により以前と変わらぬ処遇で働けるようになった。同社は定年を60歳から65歳まで延長。定年延長は多くの会社が取り入れ始めているが、日本ガイシは給与も60歳時の水準を維持した。

 新制度導入前のいわゆる「定年後再雇用」の給与水準は、誇れるものではなかった。年収5割減が原則で、企業年金の受け取り分を足しても豊かな収入とは言えない仕組みだった。

 「定年延長・給与維持」の決断は会社負担の増加につながり、覚悟が必要だ。日本ガイシは定年延長と同時に、50歳以降の給与を多少減額する一方、30歳以降の年収を引き上げている。トータルでは原資が足りなくなる。企業年金の受取時期をずらして資金に充ててもまだ足りなかったため、「会社としての持ち出し」を決断した。

 この2年間で定年延長の仕組みを使った社員は50人程度。今後、バブル期入社組への対応などを考えると、さらに利用者は増えると予測する。懐事情は会社側にとっても悩みの種ではあるが、山田忠明執行役員人事部長は「年間で億円単位の資金が必要とはいえ、人への投資と考えれば、さほど痛いとは思わない」と強調する。

「給与半分」で露呈した副作用

 会社負担が増えても制度を改めた理由は、「定年後に働くシニアの意欲を本当に引き出せているか」という根源的な疑問があったからだ。「給与が半分になるなら、半分だけ仕事をすればよい」という心理が芽生えるのではないか。こうした賃下げの副作用への危機感があり、実際ネガティブな空気が社内に広がりつつあったという。

 「60歳以上だからといって、“流して済む仕事”など一つもない。戦力なのだから、100%の給与を出すので100%の仕事で還元してほしい」(山田氏)。シニアの心理と会社の空気がどう変わっていくのか。単なる優しい会社、優しい制度で終わらせるつもりはない。