透明化なき執行を生んだ経営陣は一新すべきだ
青山学院大学名誉教授
八田進二氏
青山学院大学名誉教授<br/><span class="fontSizeL">八田進二氏</span>

 今回の事件は企業統治における多くの課題を浮き彫りにした。その一つが役員の報酬決定プロセスだ。役員報酬は株主総会から総額の承認を受けた取締役会が決める。社長一任となるケースも多いが、取締役会には株主総会での説明責任がある。

 日産の取締役会はカルロス・ゴーン氏の報酬の詳細すら把握せず、監査役も指摘しなかった。取締役会、監査役会が本来の責務を放棄したことでガバナンスが緩くなり、ゴーン氏に付け入る隙を与えた。

 日本では2003年に指名委員会等設置会社が導入された。指名、報酬、監査の各委員会を設置し、執行と監視を分ける手法だ。ただ、監査役協会等は米国型ガバナンスに否定的で、監査等委員会設置会社が16年に導入された。

 これらの制度はいずれも、執行における意思決定の透明化を促すものだ。今回の事件を契機に機関投資家らは情報開示によりシビアになるだろう。報酬の決め方などについても、詳細な説明を求めるようになるかもしれない。

 日産ではガバナンス強化のため、指名委員会等設置会社への移行が議論されている。「仏作って魂入れず」では意味がない。形だけの委員会を設置しても、チェックを利かせるのは難しい。

 役員報酬の確定時期についても議論になっている。裁判では、後払い報酬の支払いが確定していたかが争点の一つとなる。ただ、会計処理の基本は発生主義だ。役員報酬は年俸の固定給。報酬が決まった事業年度に処理すべきで、いつ支払われるかは関係ない。

 ゴーン氏の年俸の半分を後払いにしたとしても、報酬としては100%確定している。以前が20億円だったとすると、10億円しか確定していないという論理では、過去の支払いが過大だったということになる。

 確定していたと主張しながら計上してこなかった日産の会計処理には問題があった。私は当初から未払金を計上しなければ少額でも粉飾になると指摘していたが、日産は結局、18年10~12月期に92億円を後追いで計上した。

 東芝事件もあり問われているのはトップの倫理だ。ゴーン氏の暴走を許した西川広人社長の責任は甚大だ。記者会見で上司の名前を呼び捨てにしていたのは日本人として残念。正義の使者のように振る舞うのには違和感がある。

 日産に求められるのは、執行部の総入れ替えだ。多くの優秀な社員が、腹立たしい思いで経営陣を見ている。さらに信頼を失い、社員の離脱を加速させることは避けなければならない。(談)

ゴーン氏保釈は「特例」制度の刷新が不可欠に
日本弁護士連合会元副会長
山口健一氏
日本弁護士連合会元副会長<br/><span class="fontSizeL">山口健一氏</span>

 カルロス・ゴーン氏の逮捕以来、日本の刑事司法に、海外から多くの批判の目が向けられた。保釈がなかなか認められない勾留制度や、取り調べに弁護士が同席する決まりがないことなどだ。率直に言って、日本の刑事司法には問題が山積している。

 日本では逮捕されれば一般的に、勾留延長も含めて計23日間、拘置所に閉じ込められる。そして朝から夜まで取り調べを受けることになる。この調べ放題のやり方は海外であまり例がなく、非人道的とみられる。捜査官が納得する供述を得られるまで調べることが、多くの冤罪(えんざい)を生んできた。

 長期間の徹底した取り調べを受けると、人間は精神的、肉体的に持たない。あまりにしんどく、一度は「やった」と言って後で弁明しようと考えるのが被疑者心理だ。2003年の志布志事件では選挙違反で多くの住民が逮捕され、1年以上勾留された人もいた。捜査の過程で捜査員は思う通りの調書を作ったが、最終的には全員が無罪だった。

 日本の捜査では完全な証拠を得るため、本人の自白を重要視してきた。家族とも会えない状況で作られた自白文書が金科玉条とされ、黙っているのは怪しいといった文化が醸成された。この流れは、戦前からのものだ。

 日本弁護士連合会は刑事司法の改善を図り、複数の制度の導入を求めている。起訴前保釈、取り調べの際の弁護人の立ち会い、録音・録画などだ。これらは現状、法律が整備されていない。

 米国の場合、当初の勾留では起訴するかしないかの要件を調べるだけで、保釈金を積めば出してもらえる。日本ではどんな人間でも23日間拘束され、再逮捕を繰り返せばいくらでも勾留を延ばすことができる。

 弁護人立ち会いは自白に頼る捜査が横行する日本では必須だ。録音・録画は6月に法律が施行されるが、義務化は裁判員裁判など特定の案件についてだけ。対象を全事件に広げるべきだ。

 裁判所の保釈率は上がっているが、被疑者が否認をしていると第1回公判が終わるまで応じないのが通常だ。今回の保釈は国際的な批判を気にしてのことだろう。問題提起にはなったが、これで運用が変わるほど甘くはない。

 ゴーン氏の保釈は弁護人側の作戦勝ちという見方もある。ただ個人的には、監視カメラの設置や外部との通信制限などが一般化されると問題だと思っている。従来、2泊3日以上の旅行、関係者への接触の禁止くらいだった条件設定が変わり、保釈後の「拘束」が広がることを懸念している。(談)