全6975文字

文在寅政権が日本への強硬な姿勢を示す理由は支持率低下の目くらましというだけではない。歴史に根差した双方の言い分は異なる。関係改善は難しいが、最善の努力をしなければならない。

(写真=左:共同通信、右:YONHAP NEWS/アフロ)

 『目次』で紹介した抗日独立運動から100年の記念式典は日本人から見ると異質のものに映る。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が植民地支配に協力した人材である親日を断罪すると言うと、なぜ今さらという気持ちになるだろう。

 文氏が反日のようにみえる政策をとるのは自らの支持基盤である市民団体が従軍慰安婦や元徴用工の問題で強硬な姿勢を示すためだ。反日は「支持率が下がった政権が有権者の目くらましに利用する」というのが定説でもある。しかし問題はもっと根深いところにあるようだ。多くの研究者は国交正常化の経緯に着目している。

同床異夢の請求権協定

日本を代表する首相もしくは近く退位する天皇が (元慰安婦の)手を握り本当に申し訳なかったと 一言いえば、問題はすっかり解消される
韓国国会の文喜相議長(写真=YONHAP NEWS/アフロ)

 1965年の日韓基本条約による国交正常化は、韓国が国造りを進めるうえで欠かせなかった。有償無償で計5億ドルの日本からの資金がなければ高速道路のような大規模インフラは造れない。それゆえ国交正常化と同時に、韓国が自国民の不満を抑え込んで半ば強引に交わしたのが日韓請求権協定だった。それ以前に双方の国民が相手国に持つ財産や権利についての請求権を放棄し、日本が韓国に経済協力をすることを決めたものだ。

 「ここに齟齬(そご)があった」と一橋大学大学院の権容奭(クォン・ヨンソク)准教授は指摘する。基本条約の締結に際して韓国は、日韓併合を「不法かつ無効なもの」と主張した。これに対して日本側は「当時の国際法からみて合法だったが、45年(終戦)の時点で効力がなくなった」としてきた。

 両国の主張はかみ合わず、日本からの資金についても韓国側は「植民地支配に対する賠償であるとし、国内にもそう説明した」(木村幹・神戸大学大学院教授)。一方、日本は経済協力だと主張し、国内にもそう説明してきた。

 思惑が逆のまま請求権協定は締結された。深刻な東西冷戦の下で安全保障のために手を握らざるを得ない事情もあった。冷戦終了でその重しがとれると、韓国民にとって請求権協定は、軍事独裁政権が勝手に決めた残滓(ざんし)という意識が強くなる。歴代政権と異なり、文政権がそれを抑える配慮をしなくなったことで不満が噴出したと木村教授はみる。

日経ビジネス2019年3月11日号 42~47ページより