サムスン電子が大型投資をするのは、事業のためか世論対策か。巨大財閥は経済のけん引役であると同時に、憎しみの対象でもある。世界へと飛躍した財閥も自国の内なる戦いに終止符を打てていない。
サムスン電子が近く大型投資に踏み切るとの観測が韓国でにわかに広がってきた。朴槿恵(パク・クネ)前大統領側への贈賄事件の一審で有罪となり、二審で執行猶予となった李在鎔(イ・ジェヨン)副会長の上告審が迫っているからだ。
企業の投資と司法は本来関係ないはずだが韓国ではそう見なされていない。SK証券の金栄雨(キム・ヨンウ)アナリストは「サムスンには2枚のカードがある」と分析する。有機ELパネルとNAND型フラッシュメモリーの国内ラインを増設するカードだ。
判決前に陳情の意味を込めて1回目の増設を発表。もう1回は刑が軽かった場合、判決後に国への感謝を込めて増設を発表するシナリオだ。判決に国民が納得しなかったとしても、設備投資で国に貢献する決意を示して世論を収めようとするというのが韓国のサムスンウオッチャーたちの見立てだ。
企業はステークホルダー(利害関係者)の中でどこに重点を置くべきなのだろうか。米国は株主を中心とした企業経営に傾き、日本も追随しつつある。しかし、韓国の財閥は自国の世論に何よりも神経質になる。設備投資や雇用、中小企業への配慮を繰り返し求められるだけではない。世論によっては政治や司法までが厳しい態度に転じる。朴槿恵氏側近の財団に対する現金寄付を巡っては、2016年12月に大手8グループの首脳が国会の聴聞会に呼ばれた。李在鎔氏やSKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長が右手を挙げて宣誓する姿は、ソウル在住の邦人には見せしめとしか映らなかった。
どの国でも企業の不祥事に消費者が向ける視線は厳しいが、韓国ではそこに朝鮮戦争後の歴史が重なり、事情がややこしくなる。荒廃した国を再建するため、朴正煕(パク・チョンヒ)政権が1960~70年代、財閥に予算や権限を集中させたことを韓国民は知っている。
その後も歴代政権は景気浮揚を財閥の力に頼ったため、「富が集中し、ビジネスを独占しているという意識が国民に根付いた」(JETROの百本和弘氏)。
物言う株主が照準
韓国は極端な上昇志向社会でホワイトカラーとして出世することにしか価値を見いだせない。親なら子供を財閥に預けたいし、学生も就職したいと願う。だが、それがかなうのはほんの一握りだ。ひとたび財閥批判が始まれば、特権を得たとみる財閥への憎しみと社員たちへの嫉妬が増幅して社会は一斉に舌鋒を強める。司法判断も世論と無縁ではないとの見方が韓国にはあり、過去には李健熙(イ・ゴンヒ)サムスン電子会長ら財閥総帥の多くが背任などで執行猶予付きの有罪判決を受けたことがある。
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