韓国の国力の象徴、サムスンの先行きに陰りが見えている。折り畳み型スマホ発売の裏側で徐々に「サムスン離れ」が進む。足元の業績は絶好調だが、気掛かりなのは中国の猛追だ。

「ひたすら半導体の開発に邁進するしかない。(世界を席巻した)テレビやスマートフォンなどの家電事業に未来はない」。SK証券の金栄雨(キム・ヨンウ)アナリストは、韓国サムスン電子の将来を不安視する。
サムスンのマーケティングを支援したことがあるコンサル会社、コムセルの飯塚幹雄社長は「家電で中国勢にシェアを奪われ、日本メーカーが韓国勢に駆逐されたのと同じ道をたどっている」とみる。サムスンを知る関係者が向ける視線はかつてないほど厳しい。
それを象徴するのが2月20日に米サンフランシスコで開いた新型スマホ発表会だ。モバイル部門を率いる高東真(コ・ドンジン)社長が披露した戦略商品は、サムスンの今の立場を映した。
新商品「ギャラクシーフォールド」は画面を折り畳める。端末の両面にサイズの異なる2枚の有機ELディスプレーを搭載。畳めば4.6型のスマホ、広げれば7.3型のタブレットとして利用できる。「新しいカテゴリーの製品だ」と高社長は力を込めた。
世界シェア8割の有機ELディスプレーを使い、曲がる特性を最大限に活用した戦略商品だ。だが中国深圳で有機ELパネルを開発するスタートアップ、柔宇科技(ロヨル)は昨年10月に折り畳めるスマホを発表済みだ。サムスンの4日後の2月24日には中国の華為技術(ファーウェイ)が同タイプのスマホを大々的に発表した。発売前なのに特別感は失われている。
米アップルに懸命に追いすがって大画面スマホを世界に浸透させた、かつてのような勢いは見られない。スマホ市場を10年、けん引した王者の風格は急速に失われつつある。
そんな状況を見据えてか、ある国内部材大手の幹部はこう打ち明ける。「サムスン向け担当者の数を徐々に減らしている」
けん引役はファーウェイ
国内の部品・素材大手にとってサムスン、アップルの「2強」は、最優先顧客と呼べる存在だった。端末の競争力を引き上げるため、最先端の日本製部材を「誰よりも早く採用してきた」(前出の国内メーカー幹部)からだ。
しかし現在、国内部品・素材大手がサムスンに代わる大口顧客として見据えるのがファーウェイだ。スマホ開発では心臓部であるCPU(中央演算処理装置)の設計を自ら手掛け、5Gでは基地局を含めて他社の追随を許さない。
ファーウェイのスマホの世界市場シェアは急拡大している。米調査会社のIDCによると2018年の台数シェアはサムスン(20.8%)、アップル(14.9%)に次ぐ3位(14.7%)。サムスンが5年前に比べてシェアを3.7ポイント落としたのに対し、ファーウェイは9ポイント高まった。スマホ市場はファーウェイを加えた「3強」と呼べる状況だ。
米中貿易摩擦の象徴と取り上げられるほど、技術力を持ち始めたファーウェイに、日本の部品・素材メーカーはサムスンとの勢いの差を感じ取っている。ファーウェイシフトを強める別の国内部品大手の営業担当者もこう言い切る。「新しい部品の採用に誰よりも積極的なのがファーウェイ。市場のけん引役はもはやサムスンではない」
Powered by リゾーム?