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「中国に取られる気がしない」

 だが、ここへ来て風向きが変わりつつある。

 「ケニア政府による高速鉄道の債務返済が滞ったら、モンバサ港は中国のものになる」。ケニア国内メディアは昨年末ごろからこのような報道をするようになった。

 もともと「日本企業はきちんと現地に技術移転している」(アフリカ・インフラ協議会の宮本洋一会長)のに対し、「中国企業は労働者を大量に連れてきて、現地の雇用には寄与しない。技術移転もしたがらない」といった不満は現地の人たちの間にもあった。

 17年にはスリランカ政府が中国からの債務の返済に行き詰まり、同国南部の港湾の使用権を中国国有企業に99年間譲渡。トランプ米大統領が中国への警戒心を隠さないこともあり、アフリカ各国でも中国に対する厳しい見方が広がっている。それはビジネスの最前線にも表れ始めたという。

 「ここ1、2年は以前のように、中国にビジネスを持っていかれる感じがしない」。日本のインフラ関連会社に勤務し、アフリカ駐在経験のある小峰正文氏(仮名)はこう話す。

 数年前であれば、商談で好感触を得ても、次に訪問した際に顧客から「中国企業はファイナンス込み、さらに別の製品とセットで出すと言っている」などと言われ、泣く泣く諦めることがよくあったという。「中国の競合に商談していることを知られたら、取られるしかない状況だった」(小峰氏)

 だが最近は中国のライバル企業が営業に訪れている気配はあるものの、なぜか話が進展しないという。小峰氏は「顧客は技術を囲い込まない日本メーカーを好んでいる」と話す。中国メーカーは顧客の事務所に席を確保し、教えれば顧客企業の従業員でもできる作業を自社の社員にやらせるという。

 中国によるインフラ整備も、直接、受注で競合する企業は別として、日本企業にとって悪いことばかりではない。中国企業が建設した高速鉄道は、以前は12時間かかったモンバサ―ナイロビ間を約4時間40分で結ぶ。人やモノの移動が容易になり、ビジネス環境が整えば、日本企業が強みを発揮する余地が増えるとも言える。さらにPART2でも見てきた通り、続々と立ち上がるスタートアップ企業も通信や物流などのインフラ構築に役立っている。

 アフリカでのビジネスに詳しいアフリカビジネスパートナーズの梅本優香里氏は、「日本企業はアフリカを特殊な市場と考え過ぎている」と指摘する。インフラの整備やスタートアップ企業の勃興は、「普通の海外市場」としてのアフリカをさらに後押しする。

 実際、アフリカで成功を収めている日本企業はアフリカを「普通の市場」ととらえ、現地に入り込んできた。

 2月5日、塗料大手、関西ペイントの石野博社長はウガンダにいた。蚊よけ効果のある塗料の発売を記念した記者発表会に出席するためだ。日本からウガンダまで、移動にかかる時間は中東経由で24時間弱。多忙な日々の合間を縫って現地に飛び、現地メディアに対応するのは、ひとえに関西ペイントがアフリカで展開する「プラスコン」ブランドを確立するためだ。

関西ペイントはタンザニアなど東アフリカに4万カ所あったライバルのロゴを1年で描き換えた

 関西ペイントは11年、プラスコンのブランドを持ち、南アフリカでシェア首位の塗料メーカー、フリーワールド・コーティングスを買収した。これを皮切りに、13年にジンバブエの企業、17年にウガンダのサドリンを買収。現地の有力企業を買収するという海外展開の王道で事業を拡大してきた。

 「ゼロからブランドを確立するには、最低10年はかかる。その時間を買った」。石野社長は買収の狙いをこう振り返る。関西ペイントの強みは自動車向けだが、アフリカ大陸では汎用塗料が主戦場。汎用だけに製品での差別化は難しい。ライバルとの差はブランド力と現地でのネットワークに出る。

 17年に買収したサドリンは、もともと競合する欧州メーカーの代理店だった。アフリカでは看板などをかけ替えずに営業することも多いが、買収後、ケニアやタンザニアなど4カ国に計4万カ所あったライバル企業のロゴは1年ですべて「プラスコン」に変更。代理店への奨励金を手厚くするなど「ブランドマーケティングの費用はとにかくケチらなかった」(赤木雄執行役員)。売り上げは年10%ペースで成長している。

日経ビジネス2019年3月4日号 36~39ページより