監査人との議論、「面倒くさい」

アピックでも強烈なプレッシャーの下で、現場の倫理観が欠如していったようだ。第三者委員会の調査に対し、経理・財務担当の取締役はこんなことを述べている。「会計監査人と売り上げ計上の可否について議論することが面倒くさかった」。内容を改ざんした資料を通じて会計監査人とやり取りをすることで、会計監査士の疑問をやり過ごす。そんな対応からはコンプライアンス(法令順守)の意識は感じられない。
粉飾決算の末に昨年3月、名古屋証券取引所2部で上場廃止に追い込まれたドミーも似た構図だ。
愛知県三河地区を地盤に約40店を展開する地場食品スーパーの同社は、店舗が業績不振に陥った場合にその資産価値を下げる減損の損失を回避するために13年5月期ごろから本格的に不正に手を染めていた。
12年5月期にある店舗が2期連続赤字に陥り、2400万円の減損損失を被ったことがきっかけだった。仕入れ先の食品、衣料品メーカーから規模に応じて受け取るリベートを減損対象になりそうな不振店に傾斜配分したり、原価の一部を他店に付け替えたりしていた。
売上高の架空計上ではないから直接的な業績への影響は小さい。しかし、本来なら発生したかもしれない数千万円単位の損失を回避できた可能性がある。
不正を調査した第三者委員会の報告書によれば、当時の社長(現会長)ら経営陣は、減損の可能性のありそうな店舗を指定して、従業員に予算で決めた毎月の売上高、粗利率などの必達を要求したという。しかも毎週の全体会議などでその状況を社長に報告させられたことから「(担当役員、現場は)強いプレッシャーを感じていた」。
経営者が強くプレッシャーをかけなくても、現場が忖度(そんたく)をして粉飾するケースもある。

圧力計・圧力センサー大手の長野計器。その連結子会社フクダで16年に発覚した不正会計は、「売り上げの平準化」を求める同社社長の経営目標を達成するためだった。製造期間が長い製品も抱える同社だけに売り上げも月によってばらつくのが自然。だが、それを許さない環境が売り上げの前倒し計上といった会計操作につながった。
問題は社長が不正会計を認識していたこと。自ら掲げた「売り上げの平準化」を達成するために社員の不正に目をつぶっていたともいえる。経営者の質の劣化を物語る。
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