不正の背景には経営者の劣化、上場ブーム、変化対応の難しさがある。3つの要因は今も解決していない。粉飾はさらに増える可能性すらある。

「内部統制など関係ない!」
「どんな手段を使っても期末に売り上げに上げろ!」
経営トップが現場にこんな指示をして架空計上しているという内部告発文書が2017年4月下旬のある日、監査法人トーマツに届いた。舞台は、中堅半導体製造装置メーカー、アピックヤマダ。同社では、社内検査に合格していない製品を3月に「特別出荷」して、売上高を計上する手口が横行していた。顧客の承諾を得て、後日「現地調整」することが前提だった。
問題発覚後に設けられた第三者委員会の調査報告書によると、粉飾は少なくとも12年3月期から6年間続けられた。例えば16年3月期は適切な会計処理なら89億円の連結売上高を109億円と偽り、最終損益も6億8900万円の赤字を4500万円の黒字としていたという。
アピックの主力は半導体をパッケージに封入する製造装置。半導体業界は、あらゆるものがネットにつながるIoTの普及を背景にここ数年活況を呈してきた。ところが、アピックの業績は振るわない。
粉飾修正後の決算を見ると、12年3月期から18年3月期のうち4期が最終赤字。19年3月期も期中に2度の下方修正に追い込まれ、当初の黒字予想も直近は赤字転落の見通しだ。
現社長は13年4月に就任し、以後社内にこう言ってプレッシャーをかけてきたという。「売り上げにこだわった活動をすべきだ」「予算の達成は目標ではなく、義務だ」。不正会計自体は、前社長時代から行われていたが、営業部出身の現社長が就いてから本格化したようだ。
経営者の圧力が現場をゆがめ、不正に走らせる。そんなガバナンス(企業統治)崩壊の構図が近年、目立つ。
記憶に新しいのは幅広い部門で粉飾を繰り返し、業績をかさ上げした東芝だろう。例えば、15年までの7年間で約500億円の利益を水増ししたパソコン部門。期末にパソコン組み立て業者に利益を上乗せした価格で部品を卸し、期をまたいで買い戻す「バイセル取引」という仕組みを使っていた。
強引な利益押し上げ手法だが、「あらがえない雰囲気が職場にあった」と当時、パソコン部門にいた社員は打ち明ける。バイセルを繰り返すと、もともとの原価が分からなくなる。損失計上を避けるため量販店などに対し「旧機種を新機種よりも高値で卸すこともあった」という。「無理な営業計画なので担当者も社内でうまく説明できないが、そうすると上司が怒鳴り散らす」
その上司も役員、社長から業績へのプレッシャーを強く受ける立場。「上」からの圧力が社内全体にかかる中で「現場は不正かどうかの思考力、判断力も無くしていった」。
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