<span class="fontBold">ATTから取引先に送られた2種類の文書。いずれもメール添付で循環取引の事実と手口を明らかにした</span>
ATTから取引先に送られた2種類の文書。いずれもメール添付で循環取引の事実と手口を明らかにした
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 ATTの手口はこうした複数の取引先をぐるぐると回るケースとは違うが、取引自体はシンプルだった。まず、巻き込まれた取引先はATTが中国の協力先の工場から調達したという商品を仕入れたうえで、現地の取引先に販売する役回りとされていた。ATTの商品の販売代理店という位置付けだ。

 実際に商品を受け渡すわけでなく、与信のために伝票を回して手数料を稼ぐ──。こう信じた東証1部上場企業の藤倉化成子会社の藤光樹脂(東京・中央)や大阪市に本社を置く老舗化学商社KISCO など約10社は結局、不正に巻き込まれた。ATTには商品を製造する協力工場も、販売する取引先も存在しなかった。資金はATTの中国の関係先を経由して循環していた。

入金と出金の「時間差」を悪用

 循環取引は見せかけの売り上げをかさ上げするケースのほか、当座の運転資金を確保するケースがある。資金力のないATTは後者だった。

 ATTが循環取引に手を染めたのは12年ごろだという。開発費などが不足する中で柴野氏が経理部長に相談して始めた。取引先からATTへの入金は当月末であるのに対し、中国の関係先を通じた取引先への支払いは翌月末。その「時間差」に目を付けた。ATTが中国の関係先を経由して取引先に支払うまでの間、取引先から得られる仕入れ代金を運転資金に充てるわけだ。

 循環取引は取引を続けるうちにその規模が大きくなる。12年8月期に約2億円だったATTの売上高も13年8月期には約10億円に増加。その後も毎期2~6倍のペースで増やし、16年8月期には574億円まで膨らんだ。

これをやったら危ない!
●不正会計につながる10の振る舞い
これをやったら危ない!<br /><small>●不正会計につながる10の振る舞い</small>
1〜3は横領、4〜8は架空計上、9は循環取引、10は原価の付け替えにつながる
注:公認会計士の松澤公貴氏の協力で編集部が作成

 異常なまでの売り上げ増をいぶかり、「中国を訪問して取引先が存在することを確認したい」と要求する取引先もあったが、柴野氏は秘密保持契約などを理由に取り合わなかった。不信感を募らせた取引先が直接、中国の取引先にコンタクトを取ろうとすると、中国事務所が応対し、「もっともらしい説明」でかわしたという。

 循環取引は「最初から悪意があるというより、『ここを乗り切るため』といった形で始めることも多い」と公認会計士で日本公認会計士協会で不正調査専門委員会の委員長も務める松澤公貴氏は指摘する。ただ、実態のない取引だけに、循環取引の輪の中の1社にでも変調が生じると、もろくも崩れ去る。

 ATTでも17年4月に一部の取引先の支払い遅延で資金が回らなくなった。取引規模が大きくなりすぎたことがあだとなった。ATTは同年8月に破産を申し立てた。負債約90億円に対し資産は約2000万円の現預金しか残っていなかった。本誌は柴野氏に詳しい経緯を聞こうと関係先を通じて取材を申し込んだ。だが、柴野氏は、「管財人の管理下にあり、現時点では対応できない」とメールで伝えるだけだった。

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