架空取引、子会社不正、社員の着服と、不正会計の手口はさまざまだ。最近の実例に基づき、企業がどんな手口に巻き込まれているかを検証する。
2017年6月中旬。スマートフォン(スマホ)などのタッチパネル向け表面保護フィルムを製造・販売するATT(東京・墨田)の取引先に、衝撃的なメールが相次ぎ届いた。
「これまでの中国生産品として処理してきたものは、全てご懸念されておりました通り循環取引です」「懇意に相談に乗って頂きました皆様を私は騙(だま)しました」「全て私一人で行ったことであり全て私の責任です」(原文ママ)──。
送り主はATTの柴野恒雄社長(当時)。自ら不正取引の経緯や手口を具体的に「告白」する内容だった。巻き込まれた取引先の経営者は怒りに声を震わせる。「信じていたのに、こんなことになるなんて。完全に裏切られた」
15年発覚の東芝事件でひときわ注目を浴びた不正会計。だが、規模の大小にかかわらず、不正会計に手を染める企業は少なくない。いつ、どこで巻き込まれるかも分からないのが現実だ。
例えば、冒頭の柴野氏が明かした循環取引。一般には複数の会社間で取引を連続させ、製品や資金を回し合うだけで、実態のない売上高や利益を計上する取引をいう。例えば、A社がB社に商品を販売し、B社は同じ商品に手数料をつけてC社に販売。C社は同じように手数料をつけてD社に回す。A社が100円で販売したものが、B社、C社に渡るうちに、それぞれ2円ずつの手数料が加わるとすると、D社は104円で仕入れて106円で再びA社に売ることで循環取引になる。これを繰り返すうちに金額は増えるが、最後には資金繰りに窮する。売上高に実態が伴わない「禁断」の取引だ。
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