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極度の貧困を撲滅する

本田桂子

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(写真=Lisa Kato)

 5年ぶりに訪れた現地の様子を見て、あの時の決断が間違っていなかったと確信した。

 世界銀行グループMIGA(多数国間投資保証機関)の長官CEO(最高経営責任者)を務める本田桂子。彼女は1年ほど前、びっしり埋まったスケジュールの合間を縫ってコートジボワールを訪れた。MIGAは政治リスクや紛争リスクを抱える国々への投資や融資を加速させるために作られた保証機関。コートジボワールの発電所プロジェクトに保証を提供しており、その視察で訪れたのだ。

 その時に、発電所の工場長がコートジボワール人に代わっていたこともうれしかったが、それ以上にプロジェクトがコミュニティーに深く根づいていることに感激した。

 発電所ができた後、地元の女性たちは日銭を稼ぐため地元で採れるイモを使った加工食品を作り始めた。ただ、彼女たちは機械に精通しておらず、しばしば組み立てや修理に難儀する。その際に発電所のエンジニアが積極的にサポートしていた。

 聞けば、工場長の母親もローカルビジネスで彼を大学まで出したという。母親に投資すれば母親は必ず子供に投資する。それが続けばこの国はよくなる。だからこそ、積極的に支援している──という話だった。

 米コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアパートナーとして世界中を飛び回っていた本田にとって、MIGA長官というポストは青天の霹靂だった。だが、旧知のヘッドハンターから電話がかかってきた時、ちょうど目の前には16歳の娘がいた。

 MIGAの話をすると、娘は「もっと社会の役に立つことをやってほしい」とひと言。マッキンゼーでも社会の役に立っているつもりだったが、一人娘の言葉に心が揺れた。「じゃあちょっと頑張ってみようと思って」

 世銀は1日1ドル90セントで衣食住のすべてを賄う人々を極度の貧困層と定義している。現在は全人口の1割まで減っているが、世界の人口が80億人近いことを考えれば、極度の貧困状態に置かれている人々は少なくない。

 181カ国に及ぶMIGAの株主を満足させるのは至難の業だが、政治リスクのある国に資金を呼び込むのは民間企業にはできない。MIGAの保証残高は過去5年で約100億ドルから約231億ドルに増えた。「もっと社会の役に立つことをやってほしい」。少なくとも娘の願いはかなえている。