トキメキの伝道師

近藤麻理恵

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 KonMari、こと近藤麻理恵。

 「片づけコンサルタント」という聞きなれない肩書の日本人女性が、世界各国でブレークしている。

 きっかけは、日本でもベストセラーになった『人生がときめく片づけの魔法』が2014年に米国で翻訳されたこと。瞬く間に海外でヒットした。近藤の考え出した独自の片づけ法を、欧米の人々が次々に実践していったのだ。

 今年1月からは動画配信大手の米ネットフリックスが、リアリティー番組「KonMari~人生がときめく片づけの魔法~」を公開。KonMariは、その名を世界にとどろかせた。

 近藤の編み出した片づけ法“konmari method”はユニークだ。まず家の中にあるモノを一旦すべて出して、山積みにする。そこから“Spark Joy”(ときめき)を感じるものだけを残していく。

 「自分は何に胸がときめくのか」

 「どんな人生を歩みたいのか」

 自宅にあふれる大量のモノを手に取って、自身の生き方や価値観を問いかけながら、不要なモノを捨てていく。手放すモノには1つずつ感謝の気持ちを伝えるので、片づけに付きまとう罪悪感も薄れる。手だけでなく、「心」を動かして取捨選択するスタイルが、これまでの片づけ法とは大きく異なる。

 konmari methodを実践し終えた頃には、自宅はスッキリと整い、瞑想後のような満ち足りた心境にたどり着く。多くの人が面倒だと考える片づけを、楽しいものへと変えたところがポイントだ。

 試しに「KonMari」というキーワードで、インターネットを検索してもらいたい。スッキリした衣類棚や、整然と調理器具が並ぶ引き出しなど、konmari methodを実践した人々の投稿を、簡単に見つけることができるだろう。

 「どんな人生を歩みたいのか、自分を見つめ直す機会として片づけを捉えた」と近藤は語る。「konmari methodは禅に通じる」という声も多い。近藤自身は「特に自分から禅を訴求したことはなかった」と語るが、実践者たちはkonmari methodに、禅にも似た精神性を見いだしている。

 経済が豊かになれば、モノは簡単に手に入るようになる。しかし、だからといって心が満たされるわけではない。豊かになった分だけ増えていった満たされない人々に、近藤は一つの解決策を提示した。

 そして近藤は、活動範囲をさらに広げようとしている。既に世界30カ国には、近藤の片づけ法を習得した“KonMari Consultants”(こんまりコンサルタント)が約300人も誕生。今後は子供向けやオフィス向けの片づけ本も出す計画だ。

 konmari methodは人々の人生を豊かにする一つの「思想」として、世界に広がりつつある。“Spark Joy”の伝道師は、家事を形而上の概念へ昇華した。

野球の神が遣わした存在

大谷翔平

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▶北海道日本ハムファイターズ監督栗山英樹

(写真=The Asahi Shimbun/Getty Images)
(写真=The Asahi Shimbun/Getty Images)

 恐らく僕以上に翔平の力の上限を高く見ている人間はいないと思う。だからアメリカンリーグ新人王を獲得したメジャー1年目の活躍には、ほっとしたというのが正直なところだ。シーズンの早い段階で結果を残せたのはよかった。活躍が少し遅れれば、米国が二刀流を素直に受け入れたかは分からない。やはり翔平は野球の神様に愛されていると感じると同時に、彼自身が二刀流というものを突き詰めて考え、努力した成果だと思う。

 観客を身震いさせるような瞬間の素晴らしさを知り、そのためにならどんな努力もできる。このような価値観を持っている点が他の選手とは決定的に異なり、一切ぶれることがない。翔平は最初からこの価値観をある程度持っていたし、僕も彼に言い続けてきた。

 2018年はシーズン途中で右腕のけがが判明し、シーズン後に手術を受けた。19年は打者一本でやっていくことになる。二刀流は翔平にとってある種の気分転換になっていた部分もあるので、苦しむこともあるかもしれない。だが、苦しめば必ず驚異的な成長を遂げるのが彼だ。これも野球の神様が設定した試練なのだろう。この試練を乗り越えて、翔平がどのような選択をするのかは分からない。ただ100年先の未来から見て、彼の存在が野球の大きな転換点となっていることは間違いない。やはり翔平は野球の神が遣わした存在なのだろう。

車いすアスリートから絶大な信頼

石井勝之

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(写真= 菊池 くらげ)
(写真= 菊池 くらげ)

 車いすのアスリートが競うパラリンピックで122個ものメダル獲得を陰で支えた。石井勝之が手掛ける車いすは、車いす競技界で陸上の「女王」と呼ばれる米国のタチアナ・マクファデンやテニスの国枝慎吾など、世界的なアスリートが愛用している。「選手一人ひとりに合わせてミリ単位で調整している。こんなに細かな対応をしている車いすメーカーは他にない」と石井は言う。

 競技用車いすを開発するようになったきっかけは、バイク店を営んでいた父が交通事故に遭い、車いすでの生活を余儀なくされたことだ。技術者だった父は、想像以上に重く使いにくい車いすを、自ら改良し始めた。その後、車いすの販売を始め、知名度向上のために競技用車いすの世界に足を踏み入れた。

 父が作った車いすの顧客を開拓したのが、営業を担当する石井だった。現在、テニスや陸上などの車いすを手掛けている。競技会場に行き、選手に直接話しかけ、自社の製品をアピールする。

 だが、アスリートたちを驚かせたのはここからだ。一人ひとりの体形はもちろん、競技での動きの癖などにも合致するよう、徹底的に製品をチューニングしていった。車いすを体の一部のように、自由に動かせるようにしたい。その熱意が、世界のアスリートを魅了した。

 今、競技用で培ったノウハウを一般向け車いすに応用すべく、改良を進める。既に台湾、タイ、中国、韓国で販売を開始。これから世界へ本格的に打って出る。

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