POINT 2 IoTカイゼン

 「現場のモチベーションが上がった」。こう言って目を細めるのはEMS(電子機器受託製造サービス)を展開するUMC・Hエレクトロニクス(神奈川県秦野市)の齋藤拡二社長。同社はもともとサーバーやストレージ、通信ネットワーク機器を生産する日立製作所の製造子会社だったが、昨年4月、日立と国内EMSのユー・エム・シー・エレクトロニクス(UMC)がモノづくりで提携したことをきっかけに同年7月、UMCの傘下に入った。

 名門・日立の看板が外れた同社。だが、工場の現場では以前にも増してカイゼン活動に熱がこもっていた。生産機械の稼働状況をデジタルで見える化するIoTを駆使するのが持ち味だ。

超「見える化」で人と場所が余った
●UMC・Hエレクトロニクスが実施するIoTカイゼン
超「見える化」で人と場所が余った<br><small>●UMC・Hエレクトロニクスが実施するIoTカイゼン</small>
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 例えば、機械だけでなく人の作業もデジタルで記録することに力を入れている。標準作業をタッチパネルに映し出し、作業を終えたら作業者に画面をタッチしてもらうことで、1つの作業にかかった時間を計測できる(左の図の①)。デジタル化さえできればグラフなどに変換する「見える化」はお手の物だ(②)。かつてのようにストップウオッチは要らない。

 機械も人も稼働状況をリアルタイムで把握できるようになり、カイゼンレベルが格段に上がった。設備にトラブルが起きたらすぐに対応したり、複数の作業者の作業時間を比較してより速い人の手順を他の人に展開したりといったことが可能だ。

 ここで見えてくるのは、IoTを軸に「機械と人が協力し合う」という発想。

 機械と人の良さをそれぞれ引き出しながら、超高効率工場を目指そうというわけだ。

 例えば、ラベリング。同工程は、ラベルを貼る作業と、正しいラベルが正しい位置に貼られているかをチェックする検査に分かれる。貼るべきラベルは全部で20枚以上。貼る箇所も製品によってまちまちなので、人が手掛けた方が速いし安い。だが、検査は機械の方が得意。画像認識技術を使えば機械がカメラで正確に判断でき、さらに画像を撮影して残しておけばトレーサビリティーも確保できる。改めて人がやるべき作業と機械がやるべき作業を見直すなどした結果、このラインでは毎月2%ずつ生産性が上がるようになったという。作業に必要な場所や人も少なくなり、1500m2が空いた。

 この空きスペースがカギ。日立傘下の時なら、スペースが空いてもすぐに仕事を入れることが難しかった。作るものが日立製品に限られていたからだ。ところがEMSのUMC傘下になってからは他社や他業界から仕事を取れるようになった。すでに海外メーカーから受託した半導体検査装置の製造を空いた場所の一部を活用して始めている。

 今後、期待できるのは自動車関連部品の受託生産だ。UMCの2018年3月期の連結売上高は1256億円だったが、このうち525億円が車載機器。こうした仕事も担うことで、「来年度には売り上げと利益の向上が期待できる」と、UMC副社長でUMC・H会長の高須一久氏も手応えを感じている。

航空部品に導入するIHI

 IoTカイゼンの活用は、これまでカイゼンが進みにくかった分野でも始まっている。

 航空機エンジン部品を生産するIHIの相馬第一工場、第二工場(いずれも福島県相馬市)。両工場では加工設備をネットにつなげて生産管理をしやすくするだけでなく、人手に頼っていた細かな作業をデジタル化することで、効率化を進めている。

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IoTを活用するIHIの相馬第二工場は大型の航空機エンジン部品の製造に自動化ラインを導入(上)。同第一工場では量産部品に対して人手も活用(下)(写真=2点:尾苗 清)

 航空機部品製造の分野はカイゼン活動がやりにくいといわれてきた。命を預かる航空機だけに、発注元の航空機メーカーが要求する安全基準は厳しく、部品製造の現場では製造条件や検査データ、品質データなどを事細かに記録することが求められる。「決められた仕事」が多いと、カイゼン機運も高まらない。サプライチェーンが社内外にまたがることもボトルネックだった。

 ただ、顧客に提供するための製造記録や品質データは、見方を変えればカイゼン情報の宝庫でもある。IoTを使って効率よくデータを集め、カイゼンに結び付ける。そうして3年前に始まったのが「IQファクトリー」構想だ。

 例えば、量産品の多い第一工場では、作業者が製造記録を残す「報告」にID情報を埋め込んだ電子タグを導入。これまで作業者が手入力していたため1分かかった作業報告の時間を5秒に短縮できた。「ちりも積もれば」で、この業務改善で年間2000時間の生産時間の短縮につなげた。

 特注品を手掛ける第二工場では、協力会社からの部品の納入時間の管理が甘くなりがちだったが、作業日程をクラウド上で共有する仕組みを導入。生産計画をサプライチェーン全体で共有することで、納期遅れが出にくい体制づくりを進めている。

 IHIがトライ・アンド・エラーを繰り返しながら進めてきたIoTカイゼンの取り組み。当初想定より時間がかかったものの、「見える化、気づく化を経て、取り組みを最適化に移行する」(鈴木和彦IQファクトリーグループ担当部長)段階に入ってきた。2年後の21年をめどに、生産性を計画スタート時の2倍に引き上げる計画だ。

 IHIは今、埼玉県鶴ケ島市に民間航空機エンジンの整備業務を手掛ける新工場を建設中だ。工場の新設は同社にとって相馬以来、実に21年ぶり。19年中に稼働する予定だが、この新工場でも相馬工場で培ってきたIoTの成果を生かす考えだ。

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この記事はシリーズ「製造リショアリング 新興国に負けない 超高効率工場の逆襲」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。