終わりが近づく低賃金国とのコスト競争。今後は生産性がカギを握る。4つの「勝ちパターン」から、強さを磨く極意を探る。
POINT 1 超自動化
「ピンポン、ピンポン、ピンポン」
警戒音を鳴らしながらAGV(自動搬送ロボット)が通り過ぎていく。ここは産業用ロボット大手の安川電機が昨年7月、埼玉県入間市に完成させた「安川ソリューションファクトリ」。半導体製造装置や工作機械に組み込むサーボモーターなどを生産するが、特徴は徹底した自動化ラインにある。
組み立て作業をロボットに任せるだけではない。倉庫から資材を受け取りラインに運ぶのは自動運転のAGV。AGVがラインに到着すると、自動でコンベヤーが突き出て、資材箱を受け取る。作業員を検査工程など限られた工程だけに配置することで、人員を従来の3分の1に減らすことに成功した。
あらゆる作業を機械に任せる自動化。新興国との賃金格差が縮まったとはいえ、日本は少子高齢化による人手不足も深刻化する。人手に頼らない工場の実現は日本でモノづくりを続ける上で欠かせない。
もっとも、自動化といえども、単にロボットや機械を並べれば済むわけではない。これらの設備をいかに効率よく動かせるかがポイントになる。
安川電機の「超自動化」ラインで肝になるのは、ロボットやAGV、コンベヤーなど工場内のすべての設備をインターネットでつなぎ、それぞれを制御する独自の生産システムだ。
1つのラインに流す品種は実に500種類。形状も違えば、重さも違う。それでも生産システムは適切なタイミングで、必要な資材をラインに運ぶようにAGVに指示。ラインに並ぶ組み立てロボットにも作業内容や動作を伝え、高効率な多品種少量生産を実現する。
工場をつかさどる「頭脳」ともいえる生産システム。安川電機はここに、同社が駆動部品を生産し始めた50年前から蓄積してきた生産ノウハウを注ぎ込んだ。設備が不具合を起こさないためにはどう制御するか。どんな動きをロボットにさせれば、より効率よく組み立てられるか。そうしたノウハウをデータ化し、AI(人工知能)に学ばせ、最適解を導き出した。
工具を持ち替えるだけで、ねじ締めや、組み立てなど様々な作業を1台でこなせるロボットの能力を最大限に生かすことで、生産スピードは、それまでの3倍に上がり、受注してから納品するまでのリードタイムも1週間から1日へと大幅に短縮した。需要変動に迅速に対応することで、余分な在庫を抱え込むリスクも減ったという。

毎秒1個をスピード生産
500種類の製品を効率よく作るための自動化に的を絞った安川電機に対して、シチズン時計マニュファクチャリング(埼玉県所沢市)傘下の時計工場は自動化で究極の「高速生産」を目指した。
舞台はシチズングループの時計関連3工場の再編で生まれたミヨタ佐久工場(長野県佐久市)。シチズングループにとって約50年ぶりの時計工場として2016年12月に生産を開始した。
時計業界では早くから新興国の安価な製品が市場に出回ったことから、同社も30年以上前から自動化に着手し、コスト削減を続けてきた。その集大成ともいえるノウハウがミヨタ佐久工場に盛り込まれている。
同工場で手掛ける時計のムーブメント(駆動装置)はマイクロメートル単位の微細な部品を多数使うが、同社はこれを1秒に1個というハイペースで生産できる。月間生産数は1000万個を超え、ムーブメント工場として世界最大級となっている。
この「高速生産」を可能にしたのが、自社で内製するロボットをはじめとした製造装置だ。例えば、部品の組み込み工程。自社開発したアーム型のロボットが地板の上に歯車や部品を置くと、摩擦による作業のブレをなくすためのオイルを付けたり、ねじ締めをしたりといった作業を次々にこなしていく。1つの工程が終わるごとに、画像などを使った検査装置を通し、不良品はこの段階ではじき出す。
こうした自動化ラインを整備するにも「現場を知らないと装置の設計はできない」と佐藤敏彦社長は強調する。どのタイミングで、どうねじを締めるか、といったノウハウは現場でしか分からない。それを知ったエンジニアがカタチにする設備だからこそ、究極の高速生産を実現できる。
1980年代にムーブメントを作り上げるには、少なくとも10人の作業員をラインに張り付ける必要があったという。だが、今は異常時に機械に駆け付けて調整する担当者が2人いるだけ。今後も自動化ラインを増やすことで、工場全体としては生産性を従来より10%向上できる見込みだ。
安川電機とシチズンで見てきた超自動化の取り組み。もちろん、それなりの資金力が必要になる。次ページでは、そこまでお金をかけなくても、生産性を上げるすべを探ってみよう。
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