この記事は日経ビジネス電子版に『粉ミルクショックが示すインフレの深刻さ 価格3倍で「国家の危機」』(5月27日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』6月6日号に掲載するものです。

米国で乳幼児向けの粉ミルクが店頭から消える「粉ミルクショック」が起きている。主力工場の閉鎖を機に価格は2年前の3倍以上に高騰。インフレの波は国産品にも及び始めた。ガソリン価格の高騰も別次元に突入している。米国発の世界不況は現実となるのか。

 「7番レジに行けばあるわよ」。ニューヨーク州マンハッタンから車で30分ほどの場所にあるニュージャージー州のウォルマート。5月下旬に店舗に行くと、乳児を抱えた母親が粉ミルク商品のある場所をこう教えてくれた。

 米国で粉ミルクが欠品する事態が数カ月にわたり続いている。この店舗では1人が購入できる個数を制限し、商品をレジ店員の背後に置いて厳重に管理していた。しかも、記者が訪問した日は1歳以上の幼児用しかなかった。「1歳未満の乳児用は入荷がなく、入ったとしても一瞬で売り切れる」(店員)

 オイルショックならぬ「粉ミルクショック」──。2月下旬、米国市場の半分弱を供給するアボット・ラボラトリーズが工場の衛生管理について米食品医薬品局(FDA)から指摘された。同社が商品リコールと工場閉鎖に踏み切ると、消費者が一気に購入に走り店頭から商品が消えた。

 価格もみるみる高騰。地元メディアによると、2019年に1オンス当たり9~32セント(約11~41円)だった価格は22年1~5月に54セント~1ドル15セントにまで上昇している。乳児1人の年間消費量で5000~1万500ドルになる計算だ。

最大手のアボット・ラボラトリーズが生産する粉ミルク「シミラック」は主力工場の閉鎖とリコールで店頭から消えた(写真=AFP/アフロ)
最大手のアボット・ラボラトリーズが生産する粉ミルク「シミラック」は主力工場の閉鎖とリコールで店頭から消えた(写真=AFP/アフロ)

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