この記事は日経ビジネス電子版に『コロナ禍で経済疲弊の東南アジア、やむにやまれぬ「開国」へ』(2月28日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』3月4日号に掲載するものです。

東南アジア各国が新型コロナウイルスの水際対策を緩和し、渡航者の受け入れに動き出している。各国で感染拡大は続いているが、観光産業への依存度が高く国を閉ざし続けるのは経済的にもう難しい。新型コロナを「エンデミック(一定期間で繰り返される流行)」と捉えようとする動きも起きている。

外国人観光客が集まる通りとして世界的に有名なタイのカオサンロード。だが新型コロナ以後は人通りが途絶えてしまった
外国人観光客が集まる通りとして世界的に有名なタイのカオサンロード。だが新型コロナ以後は人通りが途絶えてしまった

 タイの首都バンコクにある「カオサンロード」。かつては世界中からの旅行者でにぎわっていたが、今やシャッターを閉じたバーやレストランも目に付き、トゥクトゥク(三輪タクシー)の運転手は寝そべっている。

 「小さなホテルのほとんどは臨時休業してしまった」。通りから数分の場所でホステル(簡易宿泊所)「スネタ ホステル カオサン」を経営するナリー・スネタ氏はため息をつく。何とか営業を続けているものの、新型コロナウイルス禍が到来して以降、開店休業状態が続いているという。

 「以前は44床あるベッドに空きが出ることのほうがまれだった。でも今はただ設備の老朽化を防ぐためだけに営業しているようなもの」とナリー氏は自嘲気味に語る。タイ政府や自治体からの支援は見込めず、銀行などから借り入れをしようにも、なかなか受け入れられなかった。

GDPの12%が吹き飛ぶ

 調査会社カシコン・リサーチ・センターのナッタポン・トリアタナシリク・デピュティマネージングディレクターによれば、「タイは国内総生産(GDP)の12%程度を外国人観光客に依存してきた」という。新型コロナは観光収入を吹き飛ばした。

 ただナリー氏によれば、足元では明るい兆しも出ているという。「1週間に数人の宿泊客がやってくるようになった」(同)。背景にあるのが水際対策の緩和だ。タイ政府はオミクロン型の感染拡大で見合わせていた緩和の取り組みを再開。2月1日には2回のPCR検査のためのホテル待機を条件に、ワクチン接種者の隔離なしの入国を認めた。3月以降は2回目のPCR検査も免除する方針だ。

 感染拡大に歯止めがかかっているわけではない。1日当たりの新規感染者数は2月23日に2万3557人と過去最多を更新した。ただ軽症者が中心で死者数は大きく増えていない。人口の7割がワクチン接種を完了するなど、「医療逼迫の懸念が薄れたことが水際対策緩和の背景にある」(ニッセイ基礎研究所の斉藤誠・准主任研究員)。

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