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新型コロナウイルスの感染者数急増により、急転直下で決まった緊急事態宣言の再発令。ターゲットとなった飲食店を中心に、運輸や旅行などサービス業の需要回復シナリオは無残にも崩れた。需要喚起策で持ち直しつつあった雇用への悪影響は必至で、失業者増加を伴う危機の「第2波」も現実味を帯びる。

緊急事態宣言が実施された1月8日夜、飲食店の明かりが消えた東京・新橋の繁華街。右上は前日の同時間帯(写真=2点:竹井 俊晴)

 2度目の緊急事態宣言発令から一夜明けた1月8日。東京都内ではこの日から飲食店への営業時間短縮の要請が始まった。東京・新橋駅前で飲食店が集まる雑居ビルを訪れると、金曜夜にもかかわらず中はひっそりとしていた。

 「今日は店を開けているけど、週明けからは休業。午後7時までしかお酒が出せないなら飲みに来るお客さんはいないでしょ」。ビル内の居酒屋で働く女性従業員はこう嘆く。

 東京都の小池百合子知事ら首長の要請と、これまでと1桁違うコロナ感染者数の増加を背景に、「ひとまず1カ月」で再発令された首都圏1都3県を対象にした緊急事態宣言。今年こそ明るい1年にと皆が願ったその矢先に、日本経済の先行きに暗雲が垂れ込めた。

「GDP1.5兆円減」でとどまるか

 IMF(国際通貨基金)の2020年秋時点での試算によれば、20年の日本の実質国内総生産(GDP)は5.3%のマイナスになる。前回の緊急事態宣言下での経済停滞により、20年4~6月の3カ月間でGDPは金額にして前年同期比で14兆円吹き飛んだ。

GDPはコロナ禍の1年でどれだけ減ったか
●2019年、20年の四半期GDPの比較
注:実質GDP比較、1~9月は内閣府統計から。10~12月はIMF推計(マイナス5.3%)に基づいて計算

 大和総研グループは、今回の緊急事態宣言に伴う実質GDPの減少幅は0.3ポイント分(金額で1.5兆円程度)とみる。人の移動が再び滞ることで、観光、飲食を中心とした産業への打撃は避けられず、経済全体を下押しすると判断した。大和総研は21年全体の成長率を20年のマイナス成長から当初2.3%のプラス成長に復帰するとみていたが、年明け10日で2.0%へ下方修正した。

 この0.3ポイント、1.5兆円の下押しはあくまで、「1都3県で宣言1カ月」という条件付き。大和総研の神田慶司シニアエコノミストは、仮に宣言が2カ月に及べば追加で0.3ポイント下押しし、その上で政府が緊急事態宣言発令の調整に入った大阪、京都、兵庫の3府県、さらに愛知、福岡も対象に加わればまた0.3ポイントマイナスと、「雪だるま式にマイナス分が積み上がっていく」とみる。「合計9都府県で宣言2カ月」という事態になれば、6兆円のGDPが失われる計算が成り立つ。「たかが0.3%」などと言っていられる状況ではなさそうだ。

緊急事態宣言の経済下押し圧力は
●19年、20年、21年のGDP比較と下押し試算
注:実質GDP比較、内閣府統計にIMF、大和総研試算なども勘案して計算

 日本経済の道筋を巡っては、V字回復は遠く、長期停滞を意味する「L字」、まだらを意味する「K字」などを予想する専門家がいる。神田氏は回復しても元通りにならないカタカナの「レ」の字型と予想してきたが、回復の出はなをくじかれただけに「コロナ禍次第でまた回復の形が変わる可能性も否定できない」とする。

日経ビジネス2021年1月18日号 12~16ページより目次