この記事は日経ビジネス電子版に『押し切られた財務省 規律なき「危機対応予算」のリスク』(12月22日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』12月28日・1月4日号に掲載するものです。

新型コロナウイルス対策費などを盛り込んだ2021年度予算案は、106兆円超と過去最大となった。21年の衆院選を意識した動きや、菅政権発足で変化した政策決定プロセスが、財務省を押し切った格好だ。歳出の半分を新規国債発行で賄う「異常事態」の常態化は、日銀および金融市場に混乱をもたらしかねない。

 政府が2020年12月21日に閣議決定した21年度予算案の一般会計総額は、過去最大の106兆6100億円となった。当初予算段階での「100兆円超え」は3年連続となる。新型コロナウイルスの流行再拡大に備え使途を定めない予備費を5兆円積むなど、コロナ対策関連の経費や高齢化による社会保障費の増加が数字を押し上げた。

3年連続「100兆超え」に
●一般会計当初予算の推移
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出所:財務省

 さらに、21年度予算案には総額を抑えるように見せる「からくり」がある。政府は12月8日に財政支出40兆円、事業規模73兆6000億円の追加経済対策を決定。その裏付けとなる20年度第3次補正予算案と21年度予算案を一体で編成した。当初予算より財務省の査定が甘い第3次補正予算案に、経済対策の目玉事業を押し込んだ。

 第3次補正を含めると、20年度予算の歳出総額も175兆円超に膨らんだ。財政で経済を支える「危機モード」は、異常な予算をもたらしている。

選挙を意識した官邸、与党

(写真=共同通信)
(写真=共同通信)

 経済対策が大規模になる流れが固まる契機となったのが、11月下旬に内閣府が公表した34兆円という数字だ。

 経済の落ち込みにより、今年7~9月期の需給ギャップは年換算相当で34兆円の需要不足──。この試算結果を受け、与党から「需要不足を埋める大型補正を」といった声が噴出した。ここで経済下支え策を打たないと、半年~1年後の企業業績悪化や失業増につながるとの懸念が高まったのだ。21年10月の衆院議員の任期満了までに実施される衆院選が近いだけに「『34兆円』は菅義偉首相や与党幹部の意向をくんだ仕掛け」と政府関係者は明かす。

 財務省は「既に2度の補正予算で需要不足を埋めるための対応はしている」と抵抗したが、押し切られた。

 選挙を首相官邸や与党が強く意識したことに加え、政権内の力学や調整プロセスの変化も予算膨張に影響を与えた。政策面で経済産業省が主導権を握った安倍晋三政権では、安倍氏の側近だった経産省出身の「官邸官僚」と経産省幹部、財務省幹部が事前にすり合わせ、「正式な対策の検討指示が出た時点で予算規模や主要項目などの大枠が固まっていた」(政府関係者)。

 それが今回は一変した。首相官邸の事務方による前さばきや特定省庁の影響力が増すことを菅首相は嫌う。そのため官邸が示す方向性に沿って各省が財務省に政策の実行に必要な予算案を要求し、その内容を財務省が査定するという安倍政権以前の従来のやり方にほぼ戻った。その上で、主要項目や予算規模については最終的に菅首相の承諾を求める段取りとなった。

 だが、こうした調整プロセスの変化が財務省の力不足を露呈する形となったことは否めない。ある財務省幹部は「当初の想定よりかなり取られてしまった。こんなに官邸や各省、与党に押し切られることが多くなると、弱体化と言われても仕方ない」と力なく漏らす。

 例えば大学の研究基盤を整備する10兆円規模の基金創設と、21~25年度で大規模地震対策などを実施する事業規模15兆円程度の新たな国土強靱(きょうじん)化対策は菅首相の最側近、和泉洋人首相補佐官の肝煎り案件だ。脱炭素に向けた2兆円基金創設など経産省が望む案件が次々に認められたのも、首相と梶山弘志経産相との良好な関係によるものが大きい。

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