全4202文字

安倍晋三首相の辞任表明を受け自民党総裁選が告示され、9月14日には「ポスト安倍」が選出される。早々と菅義偉官房長官優勢の流れが固まった上、全国一斉の党員・党友投票は見送りに。論戦は熱気を欠く。 「安倍路線の継承」を掲げる菅氏への支持が雪崩を打つように加速した内幕とは。

「ポスト安倍」に正式に名乗りを上げた菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長(左から)(写真=菅氏:つのだよしお/アフロ、岸田氏:AFP/アフロ、石破氏:共同通信)

 「幕が開く前に国会議員票の大勢は決した。2位争いが注目という中で、論戦が盛り上がるはずもない」

 石破茂元幹事長を支持するある議員はため息交じりにこう語る。

 持病の再発で安倍晋三首相が突然の辞任を表明し、7年8カ月に及ぶ政権の後継を選ぶため8日に告示された今回の自民党総裁選。新型コロナウイルスの感染拡大を考慮したこともあり異例の展開となった。

無派閥が主役、異例の総裁選

 まず何より、安倍首相の辞意表明から数日の間に無派閥の菅義偉官房長官が総裁選の主役に躍り出たことだ。

 今年に入るまで、「ポスト安倍」の最右翼は岸田文雄政調会長とみられていた。安倍首相との良好な関係を背景に、首相の出身派閥で党内最大勢力の細田派と、麻生太郎副総理・財務相が率いる第2派閥の麻生派からの支持を取り付ける「禅譲」が岸田氏の戦略だった。

 だが、岸田氏は新型コロナウイルス対策づくりなどで指導力を発揮できず、各種世論調査で人気は伸び悩む。6月以降、次期政権でも党内主流派の地位を維持したい安倍首相と麻生氏の間では、次第に「岸田氏で本当に石破氏に勝てるのか?」との懸念が強まった。路線継承の観点から、限られた選択肢として浮上し始めたのが菅氏だった。

 一方、表向き石破氏を「期待の星」と持ち上げ、岸田氏について「立派な候補者の一人だ」と評してきた二階俊博幹事長。7月には、自らに秋波を送る2人の力量への疑問を周辺に漏らし、こうつぶやいたという。

 「それより、菅がいるじゃないか」

 菅氏と二階氏・森山𥙿国会対策委員長のラインは首相官邸と自民との結節点として機能し、互いにその政治的手腕を認め合う間柄。首相と麻生氏、二階氏と森山氏というキーマンが後継に菅氏と強く意識し出したところに表面化したのが首相の健康問題だ。

 政権の屋台骨として首相を支えた菅氏。首相が正式に菅氏に辞意を伝えたのは辞任会見を行った8月28日だった。菅氏自身が後に語っているように、首相は菅氏に対し「後を頼む」といったような発言はしていないと筆者に明かす。

 首相から明確な後継指名を受けず、事態がどう転ぶか見通せない状況だったが菅氏の決断は早かった。辞任会見翌日の29日夜に菅氏は二階氏、森山氏らと会談。出馬の意向を伝え、二階派は30日に菅氏への支持方針を決めた。

 実は、首相は29日の段階ではまだ岸田氏支持の可能性を捨ててはいなかったようだ。だが、30日に二階派が先陣を切って菅氏支持を表明したことで、党内で「菅総裁」への流れが強まったとみるや菅氏支持へとかじを切った。

日経ビジネス2020年9月14日号 12~14ページより目次