<span class="fontBold">安倍首相は辞任会見で「体力が万全でない中、政治判断を誤ることがあってはならない」と説明した</span>(写真=共同通信)
安倍首相は辞任会見で「体力が万全でない中、政治判断を誤ることがあってはならない」と説明した(写真=共同通信)

安倍晋三首相が8月28日、持病の悪化を理由に電撃的に辞任を表明した。景気回復の流れはコロナ前に既に途切れ、7年8カ月に及んだ長期安定政権にも幕が下りる。コロナ禍の折、この後に待ち受ける日本の政治・経済のシナリオは再び安定か、混沌か。早期の次期衆院選の可能性もちらく中、危うさばかりが目立つニッポンの道のりを展望する。

ポスト安倍、路線継続が濃厚

 「これから人事も国会もある。前回のようなことは避けたかったからね」

 安倍晋三首相は辞任会見翌日の8月29日、この時期に辞任を表明した理由について、安堵感を漂わせながらこう語った。首相が強く意識していたのが、第1次政権での苦い思い出だ。2007年、安倍首相は参院選惨敗後に内閣改造を実施。臨時国会を召集し、所信表明演説から2日後に退陣を表明した。

 持病の潰瘍性大腸炎が悪化したためだったが、当時、病状は伏せられていた。突然の辞任劇は「政権投げ出し」と強い批判を浴び、一時は政界引退を考えるまでに追い込まれた経緯がある。

「13年前の二の舞い避けたい」

 今年9月以降、内閣改造・自民党役員人事や秋の臨時国会召集という重要な政治日程が迫っていた。「今後の政治活動への影響もある。かつての失敗の二の舞いだけは避けたいとの思いを最優先したのだろう」と首相側近は漏らす。

 首相自身が認めるように、潰瘍性大腸炎は完治が難しい。最近まで薬の服用などで症状をコントロールしながら執務に当たってきた。だが、この難病は強いストレスなどで悪化しやすい。今回、首相の心身の急激な消耗を引き起こした主因は、言うまでもなく、先が見えない新型コロナウイルスへの対応だった。

 全世帯へのマスク配布や首相が自宅でくつろぐ動画公開への批判、減収世帯への30万円給付案撤回に象徴される「首相官邸主導」の揺らぎ……。今春以降、一連のコロナ対応への批判を浴びる場面が相次ぎ、政権基盤は揺らいでいった。20年度第1次補正予算と第2次補正予算の合計で事業規模約234兆円に上る巨額の経済対策を用意したものの、持続化給付金の再委託問題が浮上するなど火種は尽きなかった。

 「他の先進国に比べ、日本の新型コロナの感染者数、死者数ともにかなり少ない。10万円給付などお金が届き出せば、世論の空気も変わるよね」

 4月から6月にかけ、安倍首相は筆者に幾度もこう語っていた。だが、希望的観測の域を出ることはなく、政権への厳しい評価が続く。「何をしても批判される」(首相周辺)。官邸内には、第1次政権末期と同様の沈滞ムードさえ漂い始めていた。

 筆者個人として首相の異変を感じたのは7月に入ってからだ。首都圏を中心に国内のコロナ感染者の数が再び増加。首相との面会者からも「ひどく疲れて見える」といった情報を伝え聞く機会が急増した。

変わらぬ空気、見失う目標

 そして、国内旅行の需要喚起策「Go Toトラベル」事業が7月22日に始まる直前。「新規感染者数が増えている中でのスタートになってしまい、タイミングが悪かったね」。こう語る首相の弱々しい声に驚いたのを思い出す。28日の辞任表明会見。首相は「7月中ごろから体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となった」と説明した。

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