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米アップルがパソコン「Mac(マック)」の心臓部の半導体を米インテル製から切り替える。スマートフォン「iPhone」と同様に付加価値を高めるためには、自社設計する必要があると判断した。世界の有力企業が半導体というハードウエアに回帰する中で、日本企業はどう動くのかが問われている。

ティム・クックCEOは「将来の魅力的な新製品を実現するため」、独自半導体が必要だと語る(写真=Apple Inc./AFP/アフロ)

 「将来の魅力的な新製品を実現するために、独自の半導体への移行が必要だった」。米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は、「Mac」の心臓部の半導体を自社開発品に切り替える理由をこう説明した。

 「SoC(システム・オン・チップ)」と呼ばれる半導体をアップルがMac向けに設計する。SoCは、プログラムの実行を担うCPU(中央演算処理装置)や映像を描画するGPU(グラフィックス処理装置)などの複数の回路を載せた、電子機器の処理のほとんどを担う半導体だ。アップルはMacに2006年から米インテル製の「Core」シリーズを搭載してきたが、20年中に自社開発のSoCを載せた最初のMacを発売する。その後2年間かけてインテル製から順次切り替えていく計画だ。

 アップルがMacの半導体を自社開発することは既定路線とみられてきた。10年に発売した初代のタブレット「iPad」に自社開発のSoCを搭載したのを皮切りに、iPadやスマートフォンの「iPhone」の心臓部となる半導体を一貫して自社開発してきたからだ。独自の機能や消費電力を下げる工夫を盛り込んで設計し、台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子などに製造を委託している。

自前の設計チームが重要

 最先端の製造技術の立ち上げに苦しむなどインテルの競争力が低下する中、アップルは10年間で20億個超のSoCを出荷するという実績を積み重ねてきた。ハードウエア技術担当のジョニー・スルージ・シニアバイスプレジデントは「世界で最も省エネルギーの半導体を開発してきた経験を生かし、電力消費を抑えながら高い性能を実現する」と自信を見せる。

 クックCEOは「半導体はハードウエアの中核。だから、ワールドクラスの半導体設計チームを持つことがゲームチェンジャーなのだ」と述べた。実際、先行したアップルを追うように、自社の製品やサービスの性能を左右する半導体を自社開発する動きが顕著になっている。

 米グーグルや米アマゾン・ドット・コム、中国の百度(バイドゥ)などはAI(人工知能)の学習処理を実行する半導体の自社開発に取り組む。米マイクロソフトは半導体メーカーの米クアルコムの協力を得ながらタブレット用の半導体を開発した。中国華為技術(ファーウェイ)傘下の海思半導体(ハイシリコン)は、スマホやタブレットに使える半導体を設計している。

 競争力を強化するために、インテルやクアルコムなどが提供している標準品を買うのではなく、自社で設計して製造は最先端の技術を持つ専門企業に任せる。この流れが、アップルがMacの半導体を切り替えたことで加速しそうだ。

 実は、理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」が世界ランキングで首位に立ったことも、専用半導体の価値を裏付ける。理研の松岡聡計算科学研究センター長は「市販のCPUを購入して構築していたらこの成果は達成できなかった」と振り返り、専用半導体を富士通が設計して製造をTSMCに委託するという形態を選んだことを評価した。