米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬レムデシビルが5月7日、重症の新型コロナウイルス感染症に対し承認された。富士フイルムのグループ企業の抗インフルエンザ薬アビガンも安倍晋三首相が5月中に承認する見通しを示している。従来の手続きにのっとらない迅速な承認は画期的な半面、荒技でもある。現場での慎重な使用が欠かせない。

(写真=左上:ロイター/アフロ、左下:ギリアド・サイエンシズ提供、右上:富士フイルム提供、右下:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)
(写真=左上:ロイター/アフロ、左下:ギリアド・サイエンシズ提供、右上:富士フイルム提供、右下:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)
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 5月7日、厚生労働省はギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「ベクルリー」(一般名レムデシビル)を承認した。申請からわずか3日での特例承認で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象にした日本で初めての医薬品となった。重症患者を対象としている。

 レムデシビルはギリアドがエボラ出血熱を対象に開発を進める注射薬。コロナウイルスは細胞内に入ると、RNAポリメラーゼという酵素を作り、その働きで自らの遺伝子の複製を作って増殖する。レムデシビルはこうした働きを妨げ、ウイルスの増殖を抑える。

 レムデシビルを巡っては米食品医薬品局(FDA)が5月1日、COVID-19の重症入院患者に対する治療薬として緊急使用許可(EUA)を与えていた。FDAによる正式な承認とは異なり、一時的に使用を認めるものだ。これを受け、日本では医薬品医療機器等法に基づき、緊急使用が必要で海外で販売などが認められているといった要件を満たせば迅速に認める特例承認を適用した。

通常の手続きを飛ばす

 効果や副作用は米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)やギリアドが重症患者を対象にそれぞれ行った臨床試験などから根拠を得た。NIAID主導の試験では、10日間の投与で回復までの期間が31%早まった。医学的有意差が認められるものではないものの29日後までの死亡率も改善傾向が見られた。

 一方で患者に様々な副作用も生じている。ギリアドが人道的見地から163人に投与した実績では、レムデシビル投与との因果関係は分からないが、肺炎や敗血症が2例ずつ、急性腎障害が6例、腎不全が4例、確認された。安全性に関するデータが十分ではないため、厚労省は重大な副作用として急性腎障害や肝機能障害、嘔吐(おうと)、発汗などを挙げて注意を促している。

 こうした経緯をみると今回の承認は極めて異例なものというほかない。米政府が認めたのはあくまでも緊急使用許可であり、日本は世界で初めてレムデシビルを正式承認したことになる。「早期に治療薬を」という世論に応え、通常の手続きを飛ばしたため、限られたデータで判断せざるを得なかった。この実態を補うには、医療現場が投与の段階で慎重に扱わなければいけない。

 ギリアドは世界で14万人分を無償提供するとしているが、日本への輸出の量や時期は明らかにしていない。厚労省は当面、流通に介在し、各医療機関に配分する。投与後の経過を確実に把握することが欠かせなくなっている。

 レムデシビルに続いて早期承認が期待されるのが富士フイルムホールディングス(HD)傘下、富士フイルム富山化学の「アビガン」(一般名ファビピラビル)だ。レムデシビルと同様にRNAポリメラーゼの働きを妨げウイルスの増殖を抑える。経口薬なので軽症者に使いやすい。2014年に新型インフルエンザに対する抗ウイルス薬として承認され、200万人分が備蓄されている。新型コロナ向けに換算すると70万人分で、政府は新型コロナで200万人分まで備蓄を引き上げる方針を示している。

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