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コロナウイルスの感染が世界に広がり、モノのみならず人の動きに制限がかかり始めた。日本政府は昨年、外国人労働者の拡大を打ち出したが、新型ウイルスの影響で目算が狂っている。雇い止めや休業補償の未払いも起きており、対応を誤れば外国人の「日本離れ」が起きかねない。

人けがなくなった羽田空港。中韓からの航空便の到着も成田、関西の両国際空港に限定された(写真=西村 尚己/アフロ)

 北に浅間山、南に八ケ岳と、風光明媚な長野県佐久地域。本来なら春の訪れが待ち遠しいこの時期に、地域の農業関係者を悩ませている問題がある。

 「心配が的中した格好だ。農家は戦々恐々としている」。JA佐久浅間(長野県佐久市)で外国人技能実習生の受け入れを担当する鳴海健介氏は不安を隠せない。5月の連休明けからレタスの収穫作業が本格化するが、中国人技能実習生の来日のめどが立っていないためだ。

 レタスをはじめとする高原野菜の生産が盛んな長野県。出荷量は2018年で20万2700トンと全国に流通するレタスの約4割を占める。早朝からの収穫作業は重労働で、日本人の学生アルバイトが集まったのは20年も前の話。日本で働きながら技術を身に付ける外国人技能実習生に作業の多くを頼るのが実情だ。

ビザ遅延や減便で入国できず

(写真=共同通信)

 長野県農政部によると、19年9月時点で県内に2324人の外国人技能実習生がいる。このうち中国人は847人で、今春新たに560人程度を受け入れる予定だった。しかし、一部しか入国ができていない。中国国内での移動制限やビザの発給遅れ、減便で飛行機のチケットが取れないことなどが原因だ。

 冒頭に紹介した佐久地域でも94人の来日の見通しが立たない。このまま来日できずレタスの収穫ができない場合、販売高は最大10億円減るという。

 新型コロナウイルスの感染が世界各国に広がる中、経済的打撃は各種消費財や工業製品といった、モノの供給だけでは済まなくなっている。

 3月5日、安倍晋三首相は新型コロナウイルス感染症対策本部で新たな入国制限の強化に乗り出した。ウイルスが広がる中国、韓国で発給済みのビザの効力を停止し、新たなビザ発給は人道上の理由などを除き原則停止する。

 中韓からの日本人を含む入国者に対し、宿泊施設や医療施設などでの2週間待機も要請した。両国からの航空便の到着も成田、関西両国際空港に限定。船舶も旅客運送の停止を要請した。

 「諸外国での感染が拡大する中、今が正念場であり、国内対策はもとより機動的な水際対策についてもちゅうちょなく断行していくことが不可欠だ」。安倍首相は今回の入国制限について、こう強調する。しかし、中韓からの人の往来が一段と減少するのは必至で、ビジネスに与える影響は大きい。

 中でも懸念されるのが長野県のように中国人の労働者が確保できなくなるケースだ。日本で働く外国人労働者、165万人のうち約4分の1を中国人が占める。資格外活動と呼ばれる、留学生のアルバイトに加えて、農業、漁業の現場でも多くの中国人が働いている。

 北海道でも有数のホタテの水揚げ地として有名な北部の猿払村では、周辺地区と合わせて毎年30人前後の技能実習生を受け入れている。「うちで今年から働いてもらう技能実習生は2月に入国済みだが、道内の他のエリアでは3、4月に受け入れというところも多い。入国できずに混乱が起きているという話は聞いている」。猿払村で水産会社を営む関係者はこう話す。

日経ビジネス2020年3月16日号 16~19ページより目次