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中国本土で重症急性呼吸器症候群(SARS)を上回る死者数を出している新型コロナウイルスによる肺炎。SARSの際には日本人の感染者は確認されなかったが、今回は日本国内でも患者が出ている。中国当局や日本政府、日本企業はSARSの教訓を生かせているのか。現時点までの取り組みを検証した。

2日2日、10日という超突貫工事で完成した「火神山医院」(右)。同日には孫春蘭副首相が早速、視察に訪れた(左下)(写真=2点:ユニフォトプレス)

 新型コロナウイルスによる肺炎の感染源と目される中国湖北省武漢市。2月2日、同市内で新型肺炎患者を専門的に受け入れる1000床の「火神山医院」が完成、習近平(シー・ジンピン)国家主席の命を受け、治療に当たる人民解放軍に引き渡された。工期はわずか10日。武漢市内では2月5日の完成を目指す病床数約1600床の「雷神山医院」の建設も進んでいる。

 2002~03年流行の重症急性呼吸器症候群(SARS)の際に、国際社会から当局の対応の遅れが非難された中国。SARS同様に新型肺炎の感染者が増える中、共産党指導部が封じ込めに躍起になっている。では、中国当局は今回、SARSの教訓をどの程度、生かせているのだろうか。

 「新型肺炎とSARSの当局対応の比較」の表が示すように、新型肺炎もSARSも最初の感染者が確認された時期は11~12月と似ている。SARSの際には中国当局が感染情報を適切に公表せず、隠蔽していたこともあって、世界保健機関(WHO)が最初に緊急情報を出したのは03年3月12日と最初の感染者が出てから約4カ月たっていた。WHOが渡航自粛を勧告したのはさらにその1カ月近く後だ。

 今回の新型肺炎では19年12月上旬に原因不明の肺炎が確認され始めたが、武漢市当局は12月31日に27人が感染したと発表している。この時点で新型コロナウイルスの存在は明確になっていなかったが、市当局は翌1月1日に感染源と目される市内の海鮮市場を閉鎖するなどの対策を本格化した。

不自然さが残る武漢市の発表

 ただし、武漢市当局にどれだけの危機感があったのかは心もとない。「この病気は予防できるし制御もできる」。19年12月31日の市衛生健康委員会の発表では「人から人への感染は確認されていない」などと安心面ばかりをアピールしていた。

 市当局の発表内容には不自然さを隠せない点もある。20年1月3日、5日と感染者数を発表したものの、6日から9日まで発表はなし。10日から15日までは感染者数が41人と一切変わらなかった。

 不自然な発表をしていたときに武漢では、重要な政治会議が開かれていた。人民の代表が出席する「人民代表大会」と、経済界や中国共産党以外の各民主党派の代表者などからなる「政治協商会議」。3月に北京で開く2つの全国会議「両会」を前に武漢では湖北省の「両会」が1月12日から同17日まであった。まずは両会をトラブルなく終わらせることを湖北省政府や武漢市政府が優先したと受け止める市民は少なくない。

 SARSのときも似たようなことがあった。03年4月14日、中国紙は当時の北京市長、孟学農氏が同市初の発病者が出たのは3月1日だったと明かしたと報じた。当局が北京でSARS患者を確認したとしていたのは3月下旬。3月上旬には、北京で各地方の代表者を集めた全国人民代表大会(全人代)が開かれており、年に1度の重要会議を考慮して情報を伏せていたとの疑いが強まった。

 感染症対策よりも重要会議を優先する──。今回の武漢市当局の初動は、その変わらぬ体質を映し出す。

日経ビジネス2020年2月10日号 14~17ページより目次