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ナショナルフラッグキャリアながらも脆弱な体質を変えられず、2010年1月に経営破綻した日本航空。あれから10年。「再生請負人」稲盛和夫氏が京セラで培ったアメーバ経営などを導入して業績を急回復させた。だが、その稲盛氏が去り、内向きの社風や人事抗争という「お家芸」が復活しつつあるとの懸念が聞かれる。

(写真=NurPhoto)

 「かつての内向きで官僚的な社風が復活してきた」──。

 1月19日、会社更生法の適用申請から10年を迎える日本航空(JAL)。業績は急回復し、2019年3月期の売上高は約1兆5000億円、営業利益約1800億円で2年連続の増収増益となった。経営破綻時に2兆3000億円もの負債を抱えていた姿はもはや過去のものとなった。だが、JAL内部やOBからは先行きを懸念する見方が出ている。

 会社再建に重要な役割を果たしたキーパーソンも声を上げ始めた。

 「現場は元気だが『鯛(たい)は頭から腐る』といわれる。これからのJALが心配だ」

 こう語るのは、京セラ創業者・稲盛和夫氏とともに破綻直後のJALで再生に尽力した元専務の大田嘉仁氏(元京セラ常務)だ。13年にJALを退社後も折に触れて役員や現場社員と会い、意見を交わしてきたが、ここへきて「稲盛さんがJALに持ち込んだ施策がマンネリ化してきたようだ」と指摘する。

フィロソフィ軽視の管理職も

 経営破綻後、当時の民主党政権で国土交通相を務めていた前原誠司氏に請われる形で稲盛氏はJAL会長に就任。京セラ譲りの「アメーバ経営」と「JALフィロソフィ」を導入した。前者は組織を「アメーバ」と呼ぶ小集団に分け、それぞれが能動的に判断、行動することで目標に挑む。後者は全従業員が持つべき意識や価値観を示している。

 JALが再生したのはアメーバ経営とJALフィロソフィという2つが車の両輪としてうまく機能したからだ。「当時のJALに欠けていた」(大田氏)という数値に基づく経営管理や「正しい仕事とは何か」を考え抜く企業風土を定着させた。大規模なリストラや政府による優遇策もあったが、優良企業へと変貌したのは、一連の風土改革が大きかったとされる。再建策とかみ合ったことで経営破綻から2年8カ月後の12年9月、東証1部に再上場を果たす。そして直近では経営再建中のマレーシア航空のスポンサーとしても名前が挙がるまでになった。

 ところがその改革の“緩み”を指摘する声が上がっているというのだ。

 「何かしら理由を付けて参加しない管理職が増えている」。ある社員はこう打ち明ける。参加しないのは、稲盛氏が乗り込んで以来、続けている「JALフィロソフィ教育」の場だ。

 これは11年4月に始まり、社員全員がJALフィロソフィへの理解を深めるために定期的に受講するもの。所属部署や役職に関係なく1つの教室に集まり、グループに分かれて「一人ひとりがJAL」「果敢に挑戦する」など40項目のフィロソフィについて、意義や職場での実践事例などを議論する。

 もともと、人間性や社会貢献を追求する稲盛氏の実体験に基づいた哲学をまとめている。社員の一体感を醸成するために京セラで用いられていたものを、再生に向けJALに持ち込んだ。

日経ビジネス2020年1月13日号 14~17ページより目次