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中国の景気減速などの影響で、世界の販売台数の減少に陥った2019年の自動車業界。20年には燃費規制をはじめとした環境関連の対応で、地域ごとの「分断」が鮮明になる1年となりそうだ。消費者の環境意識は急速に変化しており、自動車業界はより混沌とした世界に突入することとなる。

EV産業の育成のために規制を使う中国、燃費規制の緩和に動く米国(写真=左・右:AP/アフロ、中央:AFPアフロ)

 「燃費規制について、カリフォルニア州には米政府の(規制の)適用から外れる権限があるが、撤廃する」。2019年9月、ドナルド・トランプ米大統領はツイッターでこう宣言した。米国では今、燃費規制をめぐって同州とその他14州と米政権が対立している。

 火種は19年夏にトランプ政権が公表した新たな燃費規制だ。環境保護庁(EPA)と運輸省道路交通安全局(NHTSA)は同年8月、自動車の温室効果ガスの排出基準と自動車メーカーに対する燃費規制に関し、オバマ政権時に決定された22年を目標とした基準値を緩和する新たな案を発表した。「25年までにガソリン1ガロン当たり平均54.5マイル以上」という規制を、「1ガロン当たり平均37マイル」に緩和するというものだ。

 NHTSAは燃費基準の緩和により、部品開発をはじめとしたコストが不要となり、新車価格が約2000ドル下がると試算。車体価格の値下がりにより米国内の販売台数が29年までに合計100万台増加するという。「今の車は高くて、ヘンリー・フォードもがっかりしているはずだろう。カリフォルニアの規制では価格も高く安全性も劣る」とトランプ米大統領は言い放つ。

加州がトランプ案に反発

 新規制案には、州が独自に定める燃費基準や省エネルギー車の導入を促すゼロ・エミッション車(ZEV)規制の廃止も盛り込まれた。

 これに大きく反発するのが、環境負荷の低減で先頭に立ってきたカリフォルニア州だ。同州は販売数の一定割合をEV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)にすることを義務付ける独自規制を持ち、約10州が同様の制度を導入している。

 カリフォルニア州は13年に連邦政府の規制の適用除外を受け、米政府より厳しい燃費規制を設けた。同州以外の13州では、22年以降の自動車燃費基準をオバマ政権時と同水準とすることを決定している。こうした「反トランプ派」の州は米国市場の約3割を占めると言われる。カリフォルニア州などは「トランプ案」阻止のために政府を提訴する意向を表明している。

 振り回されるのは自動車メーカーだ。米国自動車工業会(AAM)とトヨタ自動車など日系メーカーが加わる輸入車団体は共同で、「政府とカリフォルニア州で、共通した良識ある解決策を見いだすよう強く求める」との声明を発表した。世界販売の7割を米国が占めるSUBARU(スバル)の中村知美社長は、「政府と州法が一枚岩じゃないのは非常に迷惑な話だ」と話す。

 メーカーの立場の隔たりも明らかになりつつある。トヨタや米ゼネラル・モーターズ(GM)などは政権側を支持する方針を表明したが、米フォード・モーターやホンダら4社はカリフォルニア州と排出ガス削減の共同基準の導入で合意した。

 今後、カリフォルニア州は政権方針を支持するメーカーからの公用車購入を停止する意向だ。「問題は長期化する。米国全体では電動化の必要性は大きく低下してしまう」と三井物産戦略研究所産業情報部の西野浩介氏は指摘する。世界的に見ても電動化の流れは避けられず、中国に次ぐ巨大市場の動向は自動車産業全体の方向性にも関わる。

 規制の手綱を緩め自動車販売を底上げしようとする米国に対し、自国産業育成の手段として活用するのが中国だ。

日経ビジネス2020年1月6日号 16~18ページより目次