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日本の再成長への一手を考える「目覚めるニッポン」。今回は、デービッド・アトキンソン氏が提言する。 電子版に掲載した「生産性向上には最低賃金引き上げが不可欠」という同氏の主張に、読者の多くは納得したようだ。その一方で、特に地方の中小企業が苦しみ、雇用が減るのではないかといった悪影響を懸念する声もあった。

生産性を向上させるには最低賃金を引き上げるのが最も効果があると主張しています。どういうことですか。

 トヨタ自動車の「カイゼン」活動が長らくもてはやされてきたように、日本企業は現場の「改善」は得意ですが、経営の「改革」は苦手です。

デービッド・アトキンソン氏。
1965年、英国生まれ。元ゴールドマン・サックス証券金融調査室長で現在は国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工芸社社長。『日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義』など著書多数。
(写真=的野 弘路)

 日本の現状を調査・分析すれば、人口減少や少子高齢化が最大の問題だと分かります。しかし、人口増から人口減へとパラダイムシフトが起きているのに、何も変わっていないかのごとく改革ではなく改善ばかりを続けています。最低賃金引き上げは、こうした状況を大きく変える改革になります。

 過去20年間で、米国や英国の給料は約1.7倍になりましたが日本では約7%減少しました。人口が減れば、数の原理で日本のGDP(国内総生産)も縮小します。そうならないためには、給料を増やすしかありません。

 例えば、平均所得420万円の労働者が2人いると仮定すると所得の合計は840万円。それをすべて使うと、個人消費が840万円。労働者が1人に減っても個人消費を維持するには、1人の所得を840万円に引き上げなければなりません。単純な話です。GDPの議論で個人消費についてだけ考えたのは、家計から支出する消費がGDPの5割以上を占めているからです。

 生産性向上の掛け声は大きいですが、最低賃金引き上げには後ろ向きの経営者や識者が多いですよね。しかし、生産性が向上しても最低賃金を引き上げなければどうなりますか。労働分配率がどんどん下がり、その結果、個人消費も減っていきます。

日経ビジネス2019年9月2日号 18~19ページより目次