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敵対的TOB(株式公開買い付け)などM&A(合併・買収)を巡る対立が相次いでいる。共通するのは、これまで日本ではほぼ見られなかった「大株主が牙をむく」という構図だ。「大株主=物言わぬ安定株主」という時代は、もはや完全に終わりつつある。

アスクルの岩田彰一郎社長(当時、左から2番目)は筆頭株主ヤフーの反対で退任に追い込まれた(写真=時事)

 今年に入り、株式市場で何度となく目にするようになったのが「敵対的」という言葉だ。過去の日本のM&Aでは極めて珍しく、ほぼ使われなかった手法が「普通の出来事」になりつつある。

 年明けに注目を集めたのが、伊藤忠商事と同社が30%を出資するデサントとの対立。伊藤忠は持ち分法適用会社のデサントに敵対的TOBを仕掛け、最終的に保有比率を40%に引き上げたのは記憶に新しい。抵抗したデサント創業家の石本雅敏社長は退任し、新社長には伊藤忠から小関秀一氏が送り込まれた。

 足元ではエイチ・アイ・エス(HIS)による不動産大手ユニゾホールディングス(HD)への敵対的TOBが失敗に終わったばかり。伊藤忠は成功、HISは失敗と結果こそ違えど、大手企業が敵対的手法を当たり前のように使うようになったことは大きな変化だ。

証券業界でもタブー視

 「敵対的TOBを本当に支援するのか」──。伊藤忠・デサントの場合、公開買付代理人として伊藤忠に付いた野村証券の社内では首脳陣を交えこうした議論が何度もあったという。証券業界では「敵対的案件はタブー視されてきた」(大手国内証券幹部)からだ。

 これまで日本には株式持ち合いという固有の文化があり、「大株主=物言わぬ安定株主」の構造が続いてきた。2006年には製紙業界最大手の王子製紙(現・王子ホールディングス)が北越製紙(現・北越コーポレーション)に敵対的TOBを仕掛けたが、三菱商事が北越の第三者割当増資を引き受けて支援に回り、結局失敗に終わった。

 その後、10年以上にわたり日本企業間で敵対的買収の動きは鳴りを潜めたが、その間に世界のM&Aの潮流はどんどん前に進んだ。欧米企業では自社の成長に「この会社が必要だ」と思えば、相手がどう思おうとTOBを仕掛けるのが当たり前。まず水面下で接触し、拒絶されたら「しょうがない、やめておこうか」となる日本企業とは対照的だ。

 しかしM&Aがボーダーレス化するなか、日本だけぬるま湯につかっているわけにはいかない。仮に経営陣が買収拒否の姿勢でも、最終的に可否を決めるのは株主価値の最大化を託された取締役会、もしくは株主だ。経営と監督の分離が進んだ欧米企業では株主が支持すればM&Aは成立する、というのが常識。大株主が買い手を探してくるケースすら頻繁に起こっている。