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 なぜ工事が遅れているのか。理由の一つは、ネットビジネスを生業としてきた楽天と通信業界との「時間軸の違い」だ。

 前出の楽天幹部は嘆息する。「こちらが工事関連の折衝に慣れていないこともあるが、我々が求めるスピードに工事会社がついてきてくれない」。必要とあらば朝令暮改をいとわず、スピード重視で物事を進めていくネット業界に対し、装置産業である通信業界は確実な計画を基に一つひとつの手を積み上げていく。その意識の違いが出ているのだ。

 実際、基地局の開設工事は設置場所となる不動産所有者との交渉に始まり、アンテナの取り付けや電源工事、通信網に接続する光ファイバーの敷設といった多くの作業が必要となる。このため「短くとも3カ月程度かかる工事期間を、楽天は1カ月以内で済ませようとしていた」(楽天の内情に詳しい通信機器メーカー関係者)。

携帯電話参入を表明後の楽天の歩み
(写真=左:AFP/アフロ、中:読売新聞/アフロ)
(写真=左:共同通信、右:つのだよしお/アフロ)

性能検証着手にも遅れ

 問題はほかにもある。
 「インフラ全体の性能が十分かどうか、商用環境で検証する期間が短すぎる」と、あるメーカー関係者が明かす。

 携帯電話事業では設備投資の大部分を基地局のコストが占める。世界の携帯電話会社はその設備に主にスウェーデンのエリクソンやフィンランドのノキア、中国のファーウェイの大手3社のものを使うのが一般的。その3社で世界シェアは8割に達する。

 それに対し、楽天は台湾メーカーの汎用サーバーに米スタートアップ、アルティオスター・ネットワークスのソフトウエアを載せるといった大胆な策に出た。狙いはコスト削減だ。アルティオスターの技術を使えば、専用ソフトを組み込んだ従来方式と比べて、メンテナンスのコストが下がるほか、新たな技術を導入する際も素早く対応できるという利点がある。

 ただ、楽天がこの通信インフラを使って商用環境での本格的なテストに取りかかったのは、サービス開始を3カ月後に控えたこの7月になってから。「一部の部品で納入が遅れ、なかなか作業に取りかかれなかった」と、ある関係者は話す。

 楽天に納入する通信機器メーカーは準備の遅れを懸念するが、当の楽天は問題がないことを強調する。

 「8月以降は基地局の開設ペースが上がり、10月のサービス開始までには社内で設定した目標値に届く予定だ」(楽天広報)

 それでも綱渡りであることに変わりはなく、「楽天側は“楽天的”すぎる」との声が通信機器メーカーから上がる。携帯業界に詳しいある通信コンサルタントも次のように指摘する。「万が一、サービス開始までに十分な体制が整わないのであれば、早い段階で援軍を要請するほうが得策だ。例えば、(地方で回線を貸し出す)KDDIの回線を東京23区と大阪市、名古屋市でも楽天が使えるようにしたり、1台でドコモの回線と楽天の回線を併用できる端末を提供したりする方法が考えられる」

日経ビジネス2019年8月5日号 14~16ページより目次