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参院選で与党勝利も、憲法改正に前向きな勢力は参院全体の「3分の2」に届かず。安倍首相は宿願の改憲に向け野党との連携を探り、国会論議の加速に注力する。残り任期と次期衆院選をにらみ、求心力維持と政策実現をどう図るのか。

地方選と重なる「亥年選挙」をクリアし、安倍首相は国政選挙で6連勝を飾った(写真=つのだよしお/アフロ)

 直前まで吹いた衆院の解散風に野党が翻弄され、安倍晋三首相ペースで突入した今回の参院選。低投票率の「熱気無き選挙」は自民党、公明党の与党が改選過半数を上回る71議席を獲得して勝利し、安定政権の基盤を引き続き維持した。

 憲法改正に前向きな勢力は非改選と合わせて国会発議に必要な参院全体の3分の2を割り込んだ。ただ、統一地方選後の今回の参院選はもともと「選挙疲れ」による与党の苦戦を予想する声が少なくなかった。

 その中でほぼ想定内の議席を獲得し、安倍首相は周辺に「上出来の結果だ」と漏らす。

勝因は「野党の準備不足」

 6年半以上続く政権への信任を得た格好の安倍首相。勝因を簡単に言えば「与党が早い段階から守りを固めたのに対し、野党が準備不足だった」ということに尽きる。

 政府・与党は先の通常国会への提出法案を絞り、国会論戦を無難に乗り切り、野党の見せ場を減らす戦術を取った。早めに参院選の候補者を固めて自公の選挙協力を強めるのと並行し、安倍首相らが衆院の解散風を吹かせ、与党陣営の引き締めを図った。切れ目のない首脳外交で注目を集め、選挙戦では「政治の安定」を訴えの柱に据えた。

 これに対し野党は、2016年参院選に続き全国32の改選定数1の1人区すべてで候補者を一本化し、獲得議席の上積みを狙った。だが、前回11勝を挙げた1人区は今回、10勝にとどまった。

 野党が伸び悩んだ要因の一つは出遅れと支援組織の動きの鈍さだった。立憲民主党と国民民主党の亀裂が響き、一本化作業は6月上旬にやっと完了した。「スタートが遅れたうえ、支持団体の労組が旧民進党でまとまっていた16年参院選と比べ、現場での協力は選挙区ごとにかなり温度差があった」。連合関係者はこう漏らす。

 野党が設定した争点が野党支持への追い風にならなかったことも大きい。

野党は「老後に2000万円の蓄えが必要」とする報告書への政府の対応を批判し、年金問題を主要争点に位置づけた。立民は報告書を受け取らない政府の対応を「隠蔽体質の表れ」と批判。情報を隠さず与野党で年金問題について議論すべきだ、との論陣を張った。

 だが、党内論議が不十分だったため、公約に掲げた年金の最低保障機能強化の具体策や財源を示すことはなく、論戦は低調なままだった。

 10月に予定する消費税率10%への引き上げを巡っては、野党は景気への影響などを指摘し、そろって増税に反対した。ただ立民の枝野幸男代表らは社会保障財源に充てるため消費増税は必要というのがもともとの立場。立民関係者は「年金拡充との整合性が難しくなるため、選挙戦の中盤まで消費増税反対を積極的に訴えることを避けた。結果的に関心を持つ層を十分に取り込めなかった」と明かす。

 野党では明暗が分かれた。立民が改選9議席を上回る17議席を獲得する一方、国民民主は改選8議席から6議席へ減らした。

 立民が衆参で存在感を増したことで次期衆院選をにらみ、自公に対抗する受け皿作りの主導権を立民が握る見通しだ。

日経ビジネス2019年7月29日号 12~15ページより目次