みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長が今年度中に副業・兼業を解禁する方針を明らかにした。「自己実現のスキルをみずほで身に付けてほしい」とするが、“銀行離れ”への対策も理由の一つとみられている。メガバンクの一角が副業を容認することで、今後、銀行員の人材流動化が進むことも考えられる。

「みずほフィナンシャルグループ(FG)社員の副業を含む兼業を今年度から解禁したい。みずほのネットワークを社外にもつなげて、我々がサポートしていく」
2019年3月期に新システム移行関連の減損処理などで7000億円弱の損失を計上したみずほFGの坂井辰史社長は、日経ビジネスのインタビューに対して、新しい人事制度を導入し、今年度中に社員の副業・兼業を認める方針を示した。メガバンクとしては初めての取り組みで、日本を代表する金融機関にも副業解禁が広がってきたことになる。
坂井社長は、副業を容認する狙いについて、「一人ひとりの働く意識がすごく変わっており、終身雇用を前提にした今の人事制度は限界がある。みずほを卒業した後も、みずほで働いたキャリアが生きる仕組みを作ることが大事だ」と強調。今年度から始まっている5カ年経営計画の達成に向け、社内制度を変えて社員のモチベーションを向上させる考えを示す。
「狙いは人材流出食い止め」
だが、ある金融関係者はこう分析する。「みずほが副業を認めるのは、銀行業界で多くの人材が成長著しいIT(情報技術)企業や、ベンチャー企業に流れていることを懸念しているからではないか。こうした流出を食い止め、みずほグループとして人材を囲い込むための苦肉の策なのだろう」。ITと金融が融合するフィンテックのような注目業界には銀行の人材が流れ込んでいるとされる。みずほFGが副業を容認した背景には、柔軟な働き方を認めることで、人材の“銀行離れ”を何とか食い止めたいとの強い危機感があるというわけだ。
仕事のスキル、収入向上を目的に本業の勤務時間外に働く副業・兼業については、政府が17年3月、社会の多様化に伴う働き方改革の一つとして導入を後押しする方針を示した。こうした流れを受けて、産業界では多くの企業が副業を認めるようになったが、かつて「超安定企業」といわれ、就職希望者から絶大な人気を誇った銀行も例外ではなくなった。低金利が続き、経営環境の厳しい銀行業界は、硬直化した組織の変革が求められているからだ。
三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクは人員削減計画を発表している。例えば、みずほは26年度までに約7万9000人のうち約1万9000人を、24年度までに約500ある店舗を約130店それぞれ減らすとしている。低コストでサービスが提供できるデジタル化が進む中、「現金の保管管理・搬送などにコストをかけていることと、デジタル化でコスト競争力のある価格を提供することとの間にミスマッチがある」(坂井社長)ためだが、こうした削減の動きは、後ろ向きなイメージにもつながる。実際、学生の就職先としてメガバンクの人気に陰りが見え始めている。
6月1日に始まった主要企業による20年春卒の学生の就職選考活動。就職支援のディスコが調査した「キャリタス就活2020就職希望企業ランキング」で、メガバンクのうちトップ10に入ったのは5位の三菱UFJ銀行のみ。みずほFGは20位、三井住友銀行は28位に沈んでいる。わずか3年前には、トップ5に3行とも入っていたことを考えると凋落ぶりは著しい。
●民間企業調査の就職希望企業総合ランキング
1位 | 三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行) |
---|---|
2位 | 東京海上日動火災保険 |
3位 | 三井住友銀行 |
4位 | 損害保険ジャパン日本興亜 |
5位 | みずほフィナンシャルグループ |

1位 | 伊藤忠商事 |
---|---|
2位 | トヨタ自動車 |
3位 | 三菱商事 |
4位 | サントリーグループ |
5位 | 三菱UFJ銀行 |
Powered by リゾーム?