王女を首相候補に擁立しようと試みたタクシン派政党が選挙目前で解散を迫られた。支持者は解党命令の背後に対立する軍政の意向が働いていると疑う。政党は消えても、根深い対立は消えない。予期せぬ混乱が起きる恐れもある。

<span class="fontBold">国家維持党の演説集会には多くの支持者が詰めかけた</span>
国家維持党の演説集会には多くの支持者が詰めかけた

 タイの政党が開く集会はコンサートか祭りのようだ。大音量の党歌に合わせて支持者は歌い踊り、幹部や候補者の演説が終わると用意した花輪を彼らの首にかけようと先を争って舞台に詰めかける。

 1日、バンコク都庁前の広場で集会を開いたのは、タクシン元首相派のタイ国家維持党だ。「(3月24日に実施される)総選挙では軍事政権から決別し、民主主義を取り戻そう」。有力幹部で商業副大臣経験者のナタウット氏が軍政批判を繰り広げると、広場を埋め尽くす支持者は「そうだ!」と腕を振り上げて応じた。

 だが翌週、国家維持党は選挙に出る道をあっけなく失った。7日に憲法裁判所が党に対し解散命令を下したからだ。タイで絶対的な権威を持つ王室のウボンラット王女を首相候補に擁立しようと動いたことが問題視された。

 国王も反対したため擁立はただちに断念したものの、その余波で選挙管理委員会(EC)が解党処分を申し立てた。憲法裁は「王室は尊敬されるべき立場で、選挙に利用することはタイの立憲君主制の侵害になる」と解党を迫った。

 今回の決定で出馬できなくなった候補者数は282人に上る。国家維持党は同じタクシン派の最大勢力であるタイ貢献党と小選挙区の候補者を調整していたため現地報道によると350ある選挙区のうち100区で両党の候補がいない選挙区が生まれてしまった。王女擁立という政権奪取を目指す奇策が、結果的にタクシン派を窮地に追い込んだ。

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