JITが立ち行かなくなる
英国のEU離脱の影響は当然、部品メーカーにも広がる。合意なき離脱なら、部品にも3~5%の関税がかかるからだ。トヨタの友山副社長が懸念するのも、まさにこの点だ。「バーナストン工場には1日150台のトラックが200万点の部品を運んでくる。そのうち50台がEU27カ国との間を行き来している」。追加関税のコスト負担は重い。
さらにやっかいなのは、輸出入の通関業務に時間がかかること。「最悪の場合、税関手続きで(空港や船着き場などに)行列ができることも考えられる」(経済産業省製造産業局自動車課)。そうなれば、JIT(ジャスト・イン・タイム)のサプライチェーンが根底から崩れることになる。友山副社長によると、バーナストン工場で持っている在庫は常に4時間分だ。自動車に必要な部品約3万点のうち、たった1つの部品でも時間通りに入ってこなければ工場全体の稼働が止まりかねない。
英国工場に部品を納める部品メーカーも戦々恐々だ。
「今はただ祈るしかない」。日産のサンダーランド工場に部品を納めるカルソニックカンセイの関係者は、こうため息をつく。多くの部品メーカーが英国内にも工場を持つが、小物部品などは1カ所で造った方が効率がいいため1工場に集中させる場合が多い。カルソニックカンセイでも、スペインやルーマニアでしか作っていない部品がある。かといってすぐに英国内に生産を切り替えるのも難しい。
●英国の自動車生産/国外輸出台数と、日本車メーカーの英国での自動車生産/EU27カ国向け輸出台数(いずれも2018年実績)

さらに英国内の部品工場にも影響が及ぶ可能性がある。大物部品など、輸送にコストのかかるモノについては納入先の完成車工場のすぐ近くに「門前工場」を構えるのが一般的だ。もちろん、この門前工場の部品に関税はかからないが、友山副社長が懸念していたように一部の部品の納入が滞って完成車工場の稼働が停止すれば、この門前工場も止めざるを得なくなる。
各社は在庫をあらかじめ積み増すなどして「離脱ショック」に備えるが、混乱必至の「合意なき離脱」ならこれまで築き上げたサプライチェーンに破壊的な影響を及ぼしかねない。
先を見越して英国中心の生産体制を変える日は来るのか。日本車メーカーにとっても3月29日は今後の命運を左右する日になるはずだ。
(池松 由香、北西 厚一)
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