『GE帝国盛衰史』
トーマス・グリタ、テッド・マン著、御立英史訳
2200円(税込) ダイヤモンド社

米国を代表する巨大企業はなぜ衰退したのか。中興の祖といわれたジャック・ウェルチ氏やその後継者たちの経営を検証する。

 東芝は日本を代表する重電メーカーであり、コーポレートガバナンスにおいても高評価を受けていた。だが不正会計が発覚し、解体の憂き目に遭った。本書はその東芝と歴史的に資本・技術関係が深い米国を代表する企業GE(ゼネラル・エレクトリック)が解体される過程を描く。外からはうかがい知れない大企業の腐敗の実態を関係する経営者の視点、それも懊悩(おうのう)、焦燥の視点から描いているのが新鮮だ。

 1892年設立のGEは、米国の発展と共にあった。GE史上、最高の経営者とされるのがジャック・ウェルチだ。「選択と集中」に象徴される経営手法で知られ、株価を40倍以上にした。ところがGEの危機はウェルチの時代に育まれていた、と本書は指摘する。ウェルチは総利益の半分以上をGEキャピタルという金融サービス業でつくり出し、製造業のGEを「米国で最も大きく、最も謎めいた銀行の一つ」にしてしまった。ありていに言えば製造業の不振を金融業を巧みに操作することで決算を取り繕っていたというのだ。

 ウェルチは、後任CEOに熱血漢で陽気で人好きのする44歳のジェフリー・イメルトを選ぶ。だが9.11同時多発テロによる航空機不況に加え、不正経理で破綻したエンロン・スキャンダルのためにGEの株価は低迷する。イメルトはGEキャピタルへの依存を深め、キャッシュを伴わない数字上の利益で決算を繕うが、そこにリーマン・ショックが発生。GEは政府に頼り苦境を乗り切るが、もはや市場はGEを金融業と見なし、GEキャピタルへの経営不信がGEへの経営不振に直結する。

 業績を回復させられないイメルトは投資家にノーを突きつけられ、ジョン・フラナリーにCEOの座を明け渡す。銀行マン的であり、営業マン的なイメルトと対極的人物だったフラナリーは、経営を立て直そうとするが、GEキャピタルの巨額隠れ不良債権が発覚。フラナリーは14カ月という短期間で解任される。

 ウェルチの負の遺産を背負いつつ市場の期待に応えようとしたイメルトとフラナリーは共に敗北し、GEはダウ平均から除外され、米国を代表する企業の座から滑り落ちる。

 本書はコーポレートガバナンスの欠陥を突く。「取締役会長とCEOが同一人物であるということは、CEOが自分で自分を雇っている、自分の上司は自分自身、ということにほかならない」。

 1人の人間に権力を集中させ、不正を見逃す。コーポレートガバナンス先進国の米国がこんな体たらくなのだ。米国を参考にする日本企業に不正が多いのも推して知るべしとも思えてくる。示唆の多い一冊だ。

Writer
作家
江上 剛

銀行在職時に『非情銀行』で作家デビュー。ビジネスの現場や経営者を描いた作品で人気を集める。近著は財閥解体を題材にした『創世の日』。(写真=北山 宏一)

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『教養としての決済』
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2200円(税込) 東洋経済新報社

紙幣やコインに代わるクレジットカードの台頭、そしてデジタル化へ。決済を支配する意味、その力の大きさを解説する。


『運動脳』
アンデシュ・ハンセン著、御舩由美子訳
1650円(税込) サンマーク出版

ベストセラー『スマホ脳』の著者が、「有酸素運動」が脳に与えるうつ予防、集中力・記憶力向上などの影響を説く。

日経ビジネス2022年10月10日号 76ページより目次

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