『話すことを話す きちんと声を上げるために』
キム・ハナ著
清水知佐子訳
1650円(税込)CCCメディアハウス

韓国の人気ポッドキャストの司会者が、思ったことを正確に、しかし人を傷つけず、人の心に響く「話し方の技術」についてつづる。

 ラジオ番組のパーソナリティーを担当して3年ほどたつが、毎回、帰り道に反省する。かんでしまった、ゲストへの言葉選びを間違えてしまった、といった具体例より、もっと、雰囲気というのか、空気のようなものに対する反省である。

 話す、というのは、とてもデリケートなものだ。相手の話を受けて、即座に返せば、話を聞いていないのではないかと思われるし、3秒ほど考え込んでから答えると、コミュニケーションとして重くなってしまいがち。どうやって自然なやりとりが生まれるのかは、相対する人によって異なる。Aさんとの会話に正解が見つかっても、そのままBさんには使えないし、Cさんには失礼になるかもしれない。では、いつ聞いても心地よい話し方をしている人は、何がそうさせているのか。

 韓国でコピーライターとして活動し、人気ポッドキャスト番組の進行役を務めてきた著者が、話し方をめぐる考察をエッセーにまとめた一冊。「話すためにはまず聞かなければならない」「よく聞くことで、微妙に上昇する対話のボルテージとリズムを感知することができ、それをより引き上げたり、引き下げたりすることができる」とある。ボルテージとリズムを感じるのはなかなか難しい。

 でも、この意識を強く持たないと、自分の考えてきた順番通りの質問をしたり、相手の話を遮ったりしてしまい、その場の空気を作れない。話すために聞く、聞いて話す、というのは、文字にするとシンプルに思えるが、型があるわけではない。むしろ、型があるわけではないと自覚するところから始めるべきなのだろう。

 「話が通じる関係というのは本当に大切なものだが、それよりももっとすばらしいのは、沈黙を分かち合える関係だ」「沈黙はたいてい、圧倒的に大きなもの──美しさ、荘厳さ、手に余ること、悲しさ、日常など──の前で私たちの存在が小さくなっていく瞬間に訪れる」という。なるほど確かにそうだ。その場で共有するための会話とは、リズミカルに展開していくものばかりではない。じっくりと考え込み、次の言葉を互いに待つ瞬間にも芽生えるもの。

 当然、ラジオ番組では何十秒も無音状態を作ることはできないが、相手が次に出す言葉を逡巡(しゅんじゅん)している間に、こちらがすぐに言葉を補ってしまうと、せっかく深まっていった話が、すぐさま浅瀬に戻ってきてしまう。こうなるとなかなか深まらない。

 話すとは聞くこと、そして、待つこと。ノウハウを披露するのではなく、著者自身が戸惑いながら話すことと向き合っており、その戸惑いから、いくつもの学びを得た。

Writer
ライター
武田 砂鉄

出版社での書籍編集を経てフリーに。TBSラジオでパーソナリティーも務める。近著に『偉い人ほどすぐ逃げる』、『マチズモを削り取れ』。

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日経ビジネス2022年4月11日号 86ページより目次

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