『GAFA next stage(ガーファ ネクストステージ)』
スコット・ギャロウェイ著
渡会圭子訳
1980円(税込)東洋経済新報社

コロナ禍を経てGAFAがより強大となる一方で格差は拡大し、従来の資本主義の破壊が進む現状を指摘。ポストコロナの社会を問う。

 著者は起業家でビジネススクールの教授も務める成功者だ。そのため本書もありがちなGAFA礼賛本かと思ったが、違った。その理由は彼の生まれにある。著者の父は、大恐慌時代のスコットランドで虐待を受けて育った。父の母は父のカネをたばこと酒に換えるような女性だった。そこで父はリスクを承知で米国に渡った。著者の母は末の兄弟2人を孤児院に残し、110ポンドを靴下の中に隠し、米国に来た。2人は懸命に働き、成功者となる著者を育てた。著者の原点には、父母が抱いた米国の資本主義への信頼がある。

 「成功への野心とエネルギーを生産的な労働に振り向けることで、利己心を自身の富や利害関係者の価値へと変えることができる」という「自己中心性が最終的に他の人の利益になる」のが、資本主義の本質だと彼は考える。だが、その資本主義が破壊されようとしている。

 事態を加速させたのが、コロナだ。パンデミックには「ものごとを加速させる作用」がある。例えば2000年に始まったeコマースがビジネスに占める割合は10年初頭では約16%だったが、パンデミックが拡大し始めた8週間で27%に跳ね上がった。さらにオンライン診療、オンライン授業、リモート勤務などが定着した。パンデミックが去っても新しい生活様式は変わらないだろう。この大きな変化が資本主義を危うくする。株価だけが上昇し、富裕層は自宅に居ながら財産を増やし、レストランなどで働く貧しい層は失業し、コロナに罹患(りかん)し亡くなっていった。

 著者の指摘で驚いたのは、S&P500の動きだ。GAFAなどの特定の企業の株価は上昇したが、多くの企業が消滅した。MUJI U.S.A.(無印良品、米子会社)までもが倒産した。彼は企業の評価は「数字とナラティブ(=物語)の掛け合わせ」だという。未来のイノベーションというナラティブを語れない企業は淘汰され、イノベーティブと思わせたら勝利者になれる。トヨタなどより生産台数は少ないにもかかわらず時価総額は圧倒的に高いテスラがその例だ。

 GAFAなど巨大IT企業が破綻した企業をのみ込み、さらに巨大化すれば、社会が壊れる。多様な企業が生き残り、成長すべきだと著者は言う。そこで掲げるのが「赤」と「青」のビジネスモデルだ。「赤」は消費者から搾取する絶望、「青」は消費者利益優先の希望のビジネスを指す。パンデミック後の米国をGAFAなど「赤」による搾取の社会にせず、利他的な「青」社会に戻す、そのために何をすべきか。これは米国だけでなく日本の課題でもある。「私たちの未来は私たちのもの」という著者の主張の意味を熟考したい。

Writer
作家
江上 剛

銀行在職時に『非情銀行』で作家デビュー。ビジネスの現場や経営者を描いた作品で人気を集める。近著は財閥解体を題材にした『創世の日』。(写真=北山 宏一)

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『環境経済学』
スティーヴン・スミス著、若林茂樹訳
2090円(税込)白水社

環境問題と経済の関わりから、環境破壊を規制する政策、さらに炭素税など具体的な気候変動防止策まで考察する。


『数字中国(デジタル・チャイナ)』
西村友作著
990円(税込)中公新書ラクレ

中国・対外経済貿易大学教授の著者が、デジタル戦略を推進し、経済大国としての力を増す中国の実態を解説する。

日経ビジネス2022年3月7日号 73ページより目次

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