『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界」』
ヤニス・バルファキス著、 江口 泰子訳
1980円(税込) 講談社

銀行も株式市場もなく、GAFAは消滅──。資本主義が滅びたパラレルワールドを描くことで問題山積の経済の仕組みを問う。

 SF小説の形をとった経済書という意欲作である。SFと経済にどんな接点があるのかと、いぶかしく思うかもしれないが、登場人物であるギリシャ人天才エンジニア、コスタの言を借りれば、こうなる。「資本主義とSFには共通点がひとつあります。どちらも架空の通貨を使って、未来の資産を取引することです」

 つまりは、現実の社会もSF張りに非現実だということ。紙幣と硬貨は貨幣全体のわずか3%。「97%は商業銀行と投資銀行が“つくり出す”」との指摘にはっとさせられる。

 物語の主な舞台は2025年の近未来。自身が発明した技術を使い、コスタは「もう一つの世界」に存在する「もう一人の自分」(呼び名はコスティ)とのコンタクトに成功する。コスティのいるパラレルワールドでは、公平で民主的な社会が実現したという。分岐点は08年のリーマン・ショック。世界金融危機を契機に、市民グループが知恵と力を結集し、強欲な資本主義の息の根を止めたのだ。

 コスティの報告によれば、“もう一つの2025年”にはリテール銀行や投資銀行は存在しない。あるのは中央銀行だけで、その口座を通じて、市民に定められた額の資金(パーソナル・キャピタル)が国から配られる。企業の組織はフラット。全社員に1株ずつ株式が付与され、基本給は全員同額。株式市場は消滅し、巨大資本による経済の独占もないが、家父長制は「殺しても死なないゴキブリのように」しぶとく生き残るという。

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日経ビジネス2021年11月15日号 95ページより目次

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