『三位一体の経営』
中神康議著
2200円(ダイヤモンド社)

投資先企業の経営に参画し、「物言う株主」ならぬ「動く株主」として、収益性向上を実現させた著者が、新しい経営の形をつづる。

 経営者と投資家の関係のあるべき姿、ここに本書の議論の焦点がある。投資家との対話の門戸を閉ざし、ひたすら防御的な姿勢をとる。こうした経営者が少なくない。実にもったいないことだ。投資家といってもその内実はさまざまだが、著者に代表される長期厳選投資家に限って言えば、経営者と投資家は相互補完関係にある。投資家に使われるのではなく、使いこなす。投資家ならではの思考と技術を経営に取り込めば、経営のパフォーマンスが向上する。投資家も結果的に利益を獲得でき、従業員も豊かになる。これが著者の提唱する「みなで豊かになる三位一体の経営」だ。

 本書の議論は「長期」の本質的な意味合いを明らかにしている。「会社はゴーイング・コンサーン。長期的視点に立って経営しなければならない」──経営者であればだれもがそう言う。それにしても、「長期」とは何か。「四半期は短期で、5年以上が長期」というような物理的な時間の長さではない。四半期単位で目先のことに明け暮れていては、それを10年(40四半期)続けても「短期の経営」の繰り返しにすぎない。

 トレードオフをトレードオンに昇華させる。これが本書の議論と考察から浮かび上がってくる「長期」の本質だ。長期視点に立った経営の本領は「矛盾を矛盾なく解決する」ことにある。経営者、従業員、株主という3つのステークホルダーの利害は短期的には三者対立のトレードオフの関係にあるようにみえる。しかし、これは短期的な時間軸で考えるからそう見えるだけの話。長期的な時間軸の中に位置づければトレードオフは解消され、みなが豊かになるトレードオンの関係に変容する。考えてみれば当たり前の話。「三位一体」は何も新しい経営モデルではない。

 ただし、である。上場企業の経営者は、四半期ごとの業績開示をはじめさまざまな「短期への誘惑」に取り囲まれている。目の前にある短期は見えるけれども、長期にはリアリティーがない。足元の数字で頭がいっぱいで、次の四半期決算説明会、次の株主総会をうまく乗り切ることにしか頭が回らない。短期へとなびくのは人間の本性だ。

 厳選投資家はその仕事の中身からして長期視点から逃れられない。自己規律や倫理観で長期の構えをとっているのではない。彼らのよって立つ論理は「複利」。時間軸が長いほど手にするリターンも大きくなる。長期厳選投資家は自らの利害からして長期で物事を考えざるを得ない。ここに経営者との重要な補完関係がある。

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