『ルポ「命の選別」』
千葉紀和、上東麻子著
1700円(文芸春秋)

妊婦の不安をあおる出生前診断ビジネスや障害者施設での虐待など、命のあり方に向き合うルポルタージュ。

 命の選別。重く響く言葉である。そして、その現実は暗くて深い。『ルポ「命の選別」 誰が弱者を切り捨てるのか?』では、「優生社会」のさまざまな問題点が明らかにされていく。

 優生思想など過去の遺物と思われるかもしれないが、それは間違えている。国家が強制したトップダウンの優生学ではなく、リベラル優生学とも呼ばれる、個人が望むボトムアップの新しい優生学が横行し始めているからだ。

 その要因は大きく2つある。ひとつは生命科学の大きな進歩。もうひとつは、ゆがんだ社会観とでも呼ぶべきものから生み出される誤った考え方。

 前者には、出生前診断(特に妊婦の血液検査で簡単に染色体異常がわかる新型出生前診断)、受精後の早い段階で胚の遺伝子異常を調べる着床前診断、そして、2020年のノーベル化学賞を受賞したゲノム編集技術の3つがある。

 このような先端技術を用いて、先天的な異常のある子供を「淘汰」できるようになっている。さらに、将来的には、望ましい形質を有したデザイナーベビーが可能になるかもしれない。

 そのような「ネオ優生学」を認めていいのか。科学技術そのものに善悪はない。あくまでも使う人間の問題だ。人類は今、その選択を迫られている。

 津久井やまゆり園でおきた相模原事件は誤った優生思想によるいびつな犯罪で、自分には無関係だと思いがちだ。しかし、社会全体が障害者を入所施設に入れることを望んでいるのではないかという指摘を受けると、見え方が変わってきはしないか。我々も当事者なのではないだろうか、と。

 「優生社会」の問題点として、他に、障害者施設建設に対する反対運動と、障害を持った子供を引き取らない親の存在が取り上げられている。

 どれもが具体的な事例をあげて解説されているので、身近な問題としてとらえることができる。そして、誰もが考えなければならない問題だという現実がいや応なく突きつけられ続ける。

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