
ベン・ステイル著 小坂恵理訳
5400円(みすず書房)
欧州復興を目指したマーシャル・プランが、戦後の世界秩序形成に与えた影響を資料をもとに検証する。
米大統領選が終わりました。バイデン次期政権では同盟国重視の風潮が戻ってくるのではないかと歓迎する声も上がっていますが、おそらくトランプ政権の外交政策のかなりの部分が引き継がれるだろうと思います。
もちろん、民主党政権になれば環境保護に関する国際協力は戻ってくるでしょうし、首脳間の関係構築にあたっても協調的な体裁がとられることは間違いありません。しかし、トランプ大統領もバイデン次期大統領も中国に対する見方に大きな差はありませんし、何よりも与えられた諸条件が変わらない以上、米国の姿勢が大きく変わることはないと考えるべきです。所与の条件の最たるものは米国の内向き化した世論であり、財政的制約、軍事革命や技術覇権をめぐる競争などです。
「トランプイズム」は時代の必然によって台頭してきたものであり、トランプ大統領個人が選挙で敗れても、その流れを創り出した時代性が過去に復帰するわけではありません。1939年、欧州戦線に参戦すべきと考える米国民の割合は3%にも満たなかったと言います。日本が(勘違いにも)太平洋戦線に米国を引きずり込んだことで、米国政府は国民や議会を説得することができ、第2次大戦の主要なプレーヤーになりました。そして、圧倒的な国力を有するほぼ唯一の勝者として戦後秩序を描いた。米国において欧州への関与を忌避するそれまでの孤立主義の伝統が覆された背景には、こうした歴史の偶然(=日本の真珠湾攻撃)に加え、ソ連のかたくなな拡張姿勢がありました。戦後まもなく東西両陣営は「鉄のカーテン」で隔てられます。
私たちがよく知る戦後世界が形作られたのは、当時の米国が、自国の傘下にある国々を経済的に安定させることで共産化を防ぐという明確な政策意図を持っており、マーシャル・プランに示された方針に基づいて西側諸国への手厚い支援を行ったからでした。本書は豊富な各国資料を読み解くことで、マーシャル・プランを時代を画する転換点に大胆に位置づけ、米国の冷戦における戦略の中核として描き出します。つまり、もしこれがなかったならば、国際協調も豊かで民主的な国家群も生まれなかった。しかし、現在の米国は再び新たな孤立主義に向かおうとしている。トランプ以後という時代性を考えると、本書は米国を筆頭に西側諸国の人々が今最も読むべき本です。
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