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『文学こそ最高の教養である』
駒井稔+「光文社古典新訳文庫」編集部編著
1400円(光文社)

元編集長が聞き手となり、気鋭の翻訳者14人が熱を込めて語りおろす古典文学の面白さ、深さ、豊かさ、現代性──。

文学こそ最高の教養である』は、2006年9月に創刊された光文社古典新訳文庫の初代編集長を務めた駒井稔さんと同編集部の編著です。今に息づく言葉で古典をよみがえらせたいと、10年にわたってこのシリーズをけん引した駒井元編集長と、その思いをまっすぐに受けとめ、画期的な新訳で応えた気鋭の翻訳者14人とのホットな対話を収めた600ページの熱血本!

 「古典」といえば、とっつきにくくて、敷居が高いという先入観があり、企画段階では成功を危ぶむ声が多数だったとか。その懸念を見事に払拭し、すでに14年で300点を超える新訳が世に送り出されました。ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』(亀山郁夫訳)のように、全5巻で累計100万部を突破するヒット作もあり、また、従来難解な訳文のために通読を阻まれていた伝説的名著の数々が、このシリーズによって多くの読者を獲得しています。

 この対談集はそのような革新的で情熱にあふれた戦いをともにした訳者と編集者が、それぞれの達成を振り返りつつ、翻訳の秘話、新たな読みどころの紹介・解説、率直な感想などを自在に語り合った、文学好きにはたまらない入門書です。例えば、「ボヴァリー夫人は私だ」の名言とともに知られるフランスの作家、フローベールに『三つの物語』という作品があります。『ボヴァリー夫人』に比べて決して一般的な作ではありませんが、この名品に、実に斬新で魅力的な新訳を与えた谷口亜沙子さんが、「あとがき」や「解説」にも書かなかった秘話の数々を披露しつつ、「自分はどのように訳すべきか2年以上も悩んだ」のに、文章に凝ったといわれるフローベールが、ある言葉を思いつくのに苦吟した日数は、「たった十日なんだ?」と発言したり、創造的な訳出を決断した際、「こんなことしてたら、逮捕されるんじゃないか」と思ったりしたとか、当事者でなければ口にできない愉快な楽屋話を吐露します。

 どの1編をとっても、本音が語られ、訳業への情熱がほとばしり、読後感の爽やかさはこたえられません。世界文学の広がりを実感するとともに、こうした人たちが地道に、それぞれの人生を賭けながら、真剣に“文学している”姿に胸を打たれます。