『百年と一日』
柴崎友香著
1400円(筑摩書房)

人と人との出会い、出来事、別れ、その後。学校や空港などさまざまな場所を舞台に、33の物語をつづる。

 科学者という職業は因果なもので、長年やっているとどうしても懐疑的な考え方が強くなってくる。小説をあまり読まなくなったのは、それが大きな理由ではないかと思っている。

 よほどうまく書いてもらわないと、そんな調子のよいことばかり起こるはずないやろうと疑い始めて、ストーリーを楽しめなくなってしまう。困ったものだ。そんな私でも、お気に入りの作家さんが何人かおられる。

 『百年と一日』は、そのうちの一人、柴崎友香の短編集である。33編もあるので一編一編はごく短いが、文章の密度が高いので、それぞれの内容は驚くほど芳醇(ほうじゅん)で味わい深い。

 人と人との関わり合いが織りなす物語の流れは時によどみ、時に飛ぶ。そして、その舞台は、おそらくあのあたりのことだろうと思えるものもあれば、地球のどこでもなさそうなものもある。

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