全1514文字

 新型コロナの影響で世界各国は「鎖国」のような状態に陥っている。ネット上ではつながっていても、リアルな交流は難しい。この状況が続けば、外国への関心が薄れ、人々が多様な文化に共感できなくなるのではないか。それはグローバルな共生社会にとっての危機である。そんな懸念さえ聞かれる。

 つまり、感染対策と同じく、“密閉”はよろしくないということ。ならば、せめて書籍を通じて、海の向こうに思いを寄せてはどうだろう。内向きになりがちな心に、外の風を入れるのだ。

『ワイルドサイドをほっつき歩け』
ブレイディみかこ著
1350円(筑摩書房)

恵まれていると言えない人生、それでも生き抜く英国の人々。“地べたから世界を切り取る”著者の本領発揮。

 『ワイルドサイドをほっつき歩け』は、イングランド南部に住む労働者階級の日常を生き生きと描くエッセーである。主役はベビーブーマー世代のおっさんたち(おばさんの出番もある)。離婚、失業、介護……。日々の営みの背後に、欧州連合(EU)離脱を巡る対立、NHS(無料で医療が受けられる制度)の危機といった英国の問題が見え隠れする。

 緊縮財政や新自由主義に翻弄されながらも、どっこい、おっさんたちは生きている。「地べた」でしぶとく生き延びている。彼らの人生のテーマ曲は「Always look on the bright side of life」だ。さえないはずの中高年が輝いて見えるのは、鋭くもやさしい著者の観察眼と、筆力のなせる業だろう。映像が目に浮かぶ文章とでも言おうか、どのエピソードにも短編小説のような味わいがあり、じんわり胸にしみる。

 本作は、著者のヒット作『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』と同時期に執筆されたという。片や「青竹のようにフレッシュな少年たち」、こなた「人生の苦汁を吸い過ぎて、メンマのようになったおっさんたち」。対照的な題材だが、実はこの2冊は“コインの両面”だと「あとがき」にある。現代英国の世代と階級、そして酒事情に関する解説パートも、かの国を知る足がかりになるだろう。