全1490文字

 黒人デモが全米に吹き荒れています。米国の人種問題を理解するうえでは様々な歴史を知ることが必要ですが、差別する側の白人優位主義者の実像については、これまであまり良い説明が提供されてきませんでした。

 本書は、テネシー州ナッシュビルのとあるホテルで、著者が流ちょうな日本語を操る物腰柔らかな白人男性、テイラー氏に迎えいれられるところから始まります。著者が取材に訪れたテイラー氏主宰の雑誌による白人優位主義者の会合には、悪名高いKKK(クー・クラックス・クラン)の元最高幹部やオルトライトの活動家が参加し、そこに集う人びとはほぼすべて白人男性。日々カジュアル化していく米国ではまれなことですが、ジャケットとネクタイの着用が義務付けられている。まるで学会のような雰囲気であったと著者は振り返っています。

『白人ナショナリズム』
渡辺靖著
800円(中公新書)

白人至上主義と自国第一主義が結びついた白人ナショナリズム。米国を研究する著者がリアルな声を伝える。

 タイトルは、『白人ナショナリズム』。なぜ「白人優位主義者」ではないのか。それは、はじめから彼らを白人優位主義者という一言で片づけてしまうと、その内面には迫れないからです。文化や社会を広く研究し、そのような描写を得意とする著者だからこそ、こうしたアプローチをとっているのでしょう。

 白人ナショナリズムの実像とは何か。彼らが脅かされていると思っている国家像とは一体何なのでしょうか。

 現代の白人優位主義者は、価値絶対主義ではなく、価値相対主義に立つ言い回しをします。絶対的な西洋の価値基準に基づいて植民地化を進めた時代とは異なり、彼らが望むのは、自分たちの国をあるがままにほっといてくれ、ということ。しかし、それは、もはや彼らが世界に君臨できないからであり、底流にはやはり、自らの優位を信じて疑わない態度があります。テイラー氏の紳士的な物腰と日本文化へのリスペクトは、一見白人優位主義者のイメージとはかけ離れています。ですが、彼らは「自分たちの文化」「彼らの文化」という固有のものが存在すると考えているのですから、そこに矛盾はありません。問題は、文化とは変化していくものであるにもかかわらず、理想化し、固定化してしまうことです。