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 日本は、とても偉大な知的財産を失った。本を読んで、強烈に思ったことだ。おそらく、日本屈指の頭脳であり、その頭脳をアウトプットする術を手に入れた人であり、自分よりも若い年代に対して異常なまでの愛情を持った人だったのだろうと思った。本書の著者、瀧本哲史氏は去年、若くして病でこの世を去っている。あるいは、著書やテレビ等で、あるいは大学の講義で瀧本氏のことをご存知の方も多いかもしれない。

 僕は、この本を編集した柿内芳文氏と以前から親しく、瀧本氏がまだ無名で世に出る前夜に、柿内氏と話している際に、「京都大学で授業をしている人で、とんでもない人を見つけた」と熱く語っていたのを昨日のことのように覚えている。あの癖の強い、京大生が立ち見しても見たいと思う伝説の講義。僕は以前からその講義を受けてみたいと思っていた。当然、瀧本氏の本のほとんどを僕は読んでいるが、この本で、初めて瀧本氏の授業を受けた錯覚をおぼえた。体感した、と言ってもいい。

 たとえば、三島由紀夫が東大生の前で討論するテープを高校生時分に聴いたときのような、あるいは司馬遼太郎先生の『二十一世紀に生きる君たちへ』を読んだときのような、特殊な感動を覚えた。2時間ちょっとの講義がライブで行われたように、短い時間でこの本は読める。ところが、残るものが非常に多い。そして、大きい。

 通常、書評ならば、これこれこういうわけで、この本は読むべきです、と因果律で、瀧本氏がいうところの「ロジック」で説くべきだろうが、申し訳ないがそういう気がまったく起きないのだ。

『2020年6月30日にまたここで会おう』
瀧本哲史著
980円(星海社新書)

「日本の未来に期待したい」──。47歳で急逝した著者が2012年に東京大学で行った講義を収録。読む人に生き方を問う。