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 出版社勤務時代を含め、15年ほどこの業界に身を置いているが、ファッションに無頓着な人ばかり。「この間、職務質問されちゃって」と愚痴る人が後をたたないのは、そのせいもあるんじゃないか。ファッションなんてどうでもいいよというひねくれた自己主張は、自分の体内にも煮えたぎっており、煮えたぎった者同士、互いの着ているものに突っ込んだりはしない。

『着せる女』
内澤旬子著
1650円(本の雑誌社)

ファッションに関心のないおじさんにスーツを着せ、変身させる。似合う服、TPOを考えた服選びの基本が見えてくる。

 内澤旬子『着せる女』は、「服に構わない男たちが集積しているこの業界」に生息する男性を連れ出し、似合うスーツを仕立てようと試みた記録だ。スーツを選びに新宿にやってきた友人の作家・宮田珠己を見て思う。「まさかここまでとはと、絶句したくなるダサさである。これじゃそのへんに落ちてる服を着せたって、大変身できるじゃん!」。中途半端にくすんで薄まったエメラルドグリーンのジャケットは20年以上前に購入したものだという。スーツを見繕うと、「一見まじめそうだけど、女子大生に人気の准教授って感じ」に仕上がった。

 ノンフィクション作家・高野秀行、「本の雑誌」編集長・浜本茂と、周囲の中年男たちに次々とスーツを着せる。授賞式の類いにも普段着で行きたがる「出版業界特有の『漢気』」を踏み潰し、とにかくスーツを、と促していく。

 スーツの似合う男=浮気しそうというイメージにとらわれたり、政治家のスーツってどうしてあんなに似合ってないんだろうと考え込んだり、「ギラリとスーツを着こなすポテンシャル」を持つ編集者に「僭越ながら謝罪用に一着あるとよろしいかと……」と誘い出したり、着せて、考えて、着せて、考えて、を繰り返す。

 どこへだって着ていけるスーツにたどり着いても、そもそも「似合う」ってなんなのか、との疑問が残る。実験台となった男たちがご満悦になるプロセスに笑いつつ、カッコいい服を着ることと、個性を出すことの、縮まらない距離を考え続ける。