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『古くてあたらしい仕事』
島田潤一郎著
1800円(新潮社)

「嘘をつかない。裏切らない」。当たり前に聞こえる言葉が、静かに心に響いてくる。生き方に悩む人たちに薦めたい。

 夏葉社(なつはしゃ)という「ひとり出版社」を10年間切り盛りしてきた島田潤一郎さんの書き下ろしエッセーが『古くてあたらしい仕事』です。編集経験ゼロにもかかわらず、33歳で会社を立ち上げ、いまも編集、営業、事務、発送作業、経理をすべてひとりでこなします。年に3冊の本をつくり、初版の刷り部数は2500部。定価は大きな出版社に比べてやや高めの設定なのですが、「ぼくが欲しくなるような本をつくる」「自分がお金を出して買わないような本は絶対につくらない」というきっぱりした姿勢を貫きます。

 そして、「具体的な読者の顔を想像し、よく知る書店員さんひとりひとりを思いながらつくる本。親密で、私信のような本」を世に送り出したいと語ります。10年堅実に会社を存続させ、家族4人の生活を営みながら、「小さな会社であれば、より勇敢な選択ができる。個人であれば、さらに小さな場所から、小さな仕事を選択することができる」と、ニッチであることに自分の立ち位置を見定めます。

 「だれかのための仕事は、世の中がどんなに便利になっても、消えてなくなるものではない。/それが、この仕事を一〇年続けた、ぼくの結論だ」と。

日経ビジネス2020年2月24日号 95ページより目次